褒められ苦手 [2/4]
少しずつ明るくなる空を見上げる。
地面からの振動の心地よさ、嫌に静かな車内の居心地の悪さ。いやほんと、なんでおまえいるんだって感じだよね。
……そんなのは幸村くんに聞いてくれ。
ほんの少し背もたれを倒し、カーテンを閉めて、出てきた太陽の光を遮断して。やはり眠れなかったんだと思う、次第に身体の力が抜けていった。
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「〜〜、‥だっ、〜〜!」
「〜〜〜」
「んっ」
騒がしい。せっかく気持ちよく寝ているのにと思いながら目を開けば、地面からの振動がないことに気づいた。バス、停まってる?
「それじゃあ出発します」
……は?
運転手さんの発言の直後に、エンジン音。いやいや待って!シャッと勢いよくカーテンを開ける。ここサービスエリアじゃない!?お、お腹も空いたしそれにトイレ……!は、まだ大丈夫そう。そういえばあまり水を飲んでいなかった、よかった。
ほっと安心したのも一瞬、きゅるるると鳴るお腹。
目的地までどれくらいなんだろう、我慢できるかな。空腹になりすぎると気持ち悪くなるタイプだから怖いんだけど。もうひと眠りして気を紛らわすしかないかあ、と目をつむったと同時だった。
「はい、これ」
「えっ」
目を開ければ、おにぎりとお茶がぼんやり見える。
それから少し視線を上げれば、にっこり幸村くん。
「いや、いいよ……」
「お腹空いただろ?」
「というか休憩時間に起こしてくれたらよかったのになんなの」
「気持ちよさそうに寝てたから」
起こすのも悪いだろ?と言いながら、そのまま隣の席に腰を下ろす幸村くん。いや、なんで!?
思わずぎょっとして目を見開くのは私で、車内を騒がしくさせたのはワカメだった。なんでそんな奴構うんすか!?ってそりゃ私も聞きたいわ!
にこにこと笑顔を崩さない幸村くんはなんとなく怖くて、逃げ場なんてないのに身体をほんの少し窓際に寄せた。
「俺が怖い?」
「何を考えてるのかわかんない」
「……食べるように。部長命令だから」
いつ私の部長になったんだい。密かに繰り広げられていたおにぎりの押しつけ合いは、さっきまで笑顔だったものが真顔になった瞬間に終わった。こわ。
「ありが、」
「あ、お金」
「は」
「だから、おにぎりとお茶代」
そっちが勝手に買ってきて食べさせようとしてるんだよね!?なんて口が裂けても言わないけど、なんだか公園で金金言われたつらい記憶が出てきた。そうだ、こういう男なのだ、幸村くんという人は。仕方なくポシェットから財布を取り出し、レシートに書かれてある代金を支払った。
「あ、そういえば」
え、なに、まだ何かあるの!?
警戒してポシェットに急いで財布をしまう様子がおかしかったのだろう、肩を小さく震わせている。
「ふふっ、違うよ、この前撮ってくれた写真」
「ああ、お祭りの?」
「そう。見せてほしいなと思って」
床に置いていたバッグからカメラを取り出して電源を入れ、お祭りの写真まで遡る。夏バテ気味(スランプではない)だったこともあり、枚数はそこまで増えていなかったからすぐだった。
手渡せばありがとうと言い、一枚一枚じっくりと目を通していくその表情は真剣そのもの。
「へえ、まんべんなく撮れてるね」
そういう命令だったじゃないか。頑張ったんだぞ。
写真を見ている幸村くんからそっと視線を逸らし、しばらく隣から消えないんだろうなと思い小さく息を吐いた。
「やっぱり上手だね」
「!?」
「柿原さんに頼んで正解だったよ」
「な、急に何言ってるの!?熱でもあるんじゃない!?」
「……もしかして、照れてる?」
不意打ちだった。だって、写真を撮ることはもはや私にとっては日常で、いまさら上手だなんて褒められるものでもなかったし。それに、褒められたくて写真を始めたわけでもない、単なる趣味だ。
トクントクンと速くなる脈を誤魔化すように、買ってきてもらったおにぎりにかぶりつく。
「褒められ慣れてないんだ」
くすくす笑う声が鼓膜を刺激して、くすぐったい。
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