マイクロバスは走り出す [1/4]
お父さんの笑顔に見送られて歩を進めていれば、当然のごとく車は自宅へ帰っていく。
乗せてって!帰りたい!!と叫びたくなる衝動を抑えて歩けば、ちらほらと人の姿が見える。ああ嫌だ、このままUターンしたい。
「なー、幸村。あとは誰が来とらん……って、柿原」
「柿原だと!?幸村、これはいったいどういう」
「せっかくの合宿だしカメラマン必要だろ?」
「む。いや、しかし、」
一番最初に私の姿を見つけたのは仁王くんだった。
近づけばよくわかる、その表情は薄ら笑いを浮かべて「ほんとに来たんじゃなご愁傷様」とでも言っているようで。むかつくその長い脚を蹴ってやりたい。しかしそれも老け顔(いい加減名前で呼ぶべき)と幸村くんの会話を耳にしてやめた。
蹴りなんて入れたら、“せっかくの合宿”が早々に雰囲気悪くなってしまう。
「柿原さん、荷物はそこに積んでバスに乗り込んじゃって」
まるで逃げるなよと言っているようだった。にこりと微笑む幸村くんに苦笑いを浮かべつつ、言われた通り重たい荷物を積み込んでバスに乗り込んだ。
「志眞!?」
「……あー、どうも」
びっくりした。久しぶりだった、ジャッカルが私の名を呼ぶのが。
バスの中にはすでに柳くん、柳生くん、丸井くんが各々好きな席に座っていて、ジャッカルの声に驚いていた。そして流れる気まずい雰囲気。なんでいるんだって感じですよねはい。
「合宿の邪魔はしないので」
また、冷めた声。おかしいなあ、仲直りしたいはずなんだけど。自分自身に何やってんだの意を込めたため息を吐き、運転手さんの後ろの座席に腰を下ろした。
マイクロバスの時計は、4:59を表示していた。
乗り込まないのだろうかあの二人は。
外には腕を組み待ち構えている強面の男と、一見柔らかそうな雰囲気を醸し出している男。
そして……
「すんませーーーーん!!!」
「赤也!遅刻とはたるんどる!!」
「まったく、いつも通りだね。いい加減学ぼうか」
「いやほんと、マジですんません」
ベシッと頭を叩かれたのは、切原くん。
怒られているのになぜかへらへらしている彼は、荷物を積むと駆け足でバスに乗り込み。
「げぇ!?な、なんで」
「……」
「くそ、マジかよ」
視界に私を入れるや否や目を大きく見開いて、さっきまでへらへらだった顔は歪みに歪む。舌打ちされなかっただけマシだろうけど、あいつ今睨んだぞ。可愛い可愛いわんこと同類にするの失礼じゃない?ワカメに降格だ降格!
時刻は5:03
マイクロバスは出発した。
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