平凡 | ナノ

人生初の、 [6/34]


「おおおお母さん!なんで起こしてくれなかったんだバカ!完璧遅刻じゃないかぁああ」


なんて言いながら慌ただしく階段を駆け下りる。

お母さんに今文句言ったって遅い。
もう家には誰もいない。みんなお出掛け済み。


リビングへ行けば、私の分だけ残っていた。

目玉焼きもあったけど、さすがにそれを優雅に食べている時間なんてないから冷えて硬くなってしまった食パンを口にくわえてダッシュ。なんて男らしい行動!


鍵をかけ、学校へ向かう道を走った。





「どうか1限には間に合っ‥」


走りながらパンを完食し、あとは猛ダッシュすれば間に合うだろうと思っていた時だ。

目に映ってしまった。被写体が。



「ミャァアア」


公園の中。
一匹の猫が、ひらひらと舞う蝶を見て手を出したり引っ込めたりしている光景。

撮るしかないよねえええ!?

鞄の中からカメラを出し、ピントを合わせる。合わせている最中にも猫は可愛い行動をしてくれるものだから、つい頬が緩む。



パシャ

「わーい。ありがとう猫ちゃん」




な ん て さ

ほのぼのしてる場合じゃなかった!!


心の中でぎゃああ、と叫びながらカメラをしまい、公園から飛び出す。



小さい頃に教わるだろうに、この時の私にそんな考えはまったくなかった。




飛び出し注意!



「うおっ」

「きゃっ!?」


ちょ、今の可愛らしい「きゃっ」て声は自分の!?

人間やっぱり驚くと、女子はそういう悲鳴が出るらしいことが、今証明できた。うわ、初めてだ。


キィイイイ、と大きなブレーキ音を出し、横から来た自転車は私にぶつかる前に停止。

ほっ、事故にはならなかった。息をつきながら一安心したのも束の間でした。



「テメェなに急に飛び出してんだよ!」

「ひぉおおお、ごめんなさい!」

「つか立海の奴かよ。まさか、遅刻してまで俺に会いたかったとかそういう!?」

「なぜ。きみ誰だ」


「え。俺のこと知らない!?」


うん知らないよ。
初対面だよね、実はすれ違ってたりしたのかな?いや、でもそれで相手と知り合いになれるわけじゃないしね。


「……ま、知らないならいっか。」


ふう、となぜか安心したように息を吐き、少年は自転車のペダルに足を乗っけて、漕ぎ出そうとした。

そんな自転車の荷台をガシッと掴む、私。



「な、なんだよ!行かせろよ遅刻するだろ」

「そうそう遅刻しちゃうよね。だからさ、私も乗せてよ!2ケツしよ、2ケツ!」


「まだなんも言ってねえのに座ってるし!」



しかし少年も気づいたようだ。このまま公園の前でギャアギャア言い合っていても埒が明かないし、お互い遅刻するだけ。

グチグチ言いながら自転車を漕ぎ出した。




ちょっとだけ、ドキドキする。

自分から積極的に乗っておいてなんだよって感じだが、実は男子と2ケツは初めて。


青春の1ページに刻まれるねこれ。



ガタッ

「いたっ!おっお尻痛い!!」

「知るかよ。つか重いんだけど」

「ちょっ、女子になんてことを」


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