まるで子供のように [15/15]
「どうしようこれ楽しみにしてるの!?なんてまさかですよ、吐きそう……」
合宿の前日になってしまった。私は朝から落ち着かずに家の中をそわそわと動き回っていた。もちろん両親にこの件は話していて、頑張りなさいの一言を頂戴している。
そのとおりなんだけど、可愛い娘をそんな男だらけの危ない場所に行かせるわけにはいかない!とか言ってもらえると、嬉しさのあまり涙出たんだけど。
そわそわするのに疲れてリビングのソファーにだらしなく身体を沈め、自身の腕で目元を覆う。
非常に、断りたい。しかしそれをメールするのも勇気がいるし、なんなら即電話がかかってきそうな恐怖があったので何もしなかったわけだが、今更になって、アクション起こせばよかったなと後悔。
深いため息が漏れると同時、テーブルの上に置いてあった携帯が震えた。
From:幸村精市
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明日の集合時間
学校正門前に朝5時
以上
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な、なんだこのすっごく事務連絡的なメール!
事務連絡なのは間違いないんだけど……というか、朝5時集合ってどういうこと!?早すぎない!?
ひとりで抱えきれなくなった私は、堪らず親友に電話をかけた。
『もしもし』
「ああああ、美佐〜〜っ」
『えっ、なにきもい』
電話出て早々に泣き声に似たものを聞かされればびっくりするだろうけど、きもいはなくない!?
電話じゃなくて普通に会って話そう、そう言われたので駅前のファミレスに集合することになった。
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「で?泣きついてきた理由は?」
「実は明日合宿に」
「写真部の?」
「ちょっと、わかってるくせに。写真部は学校に泊まる合宿しかしたことありませんー」
「テニス部の合宿に行くの?なにその急展開」
他人事である彼女はケラケラと笑い出した。
くそう、当事者にしてやりたい。
「まお‥幸村くんから直接電話がありまして。というか、なんで電話番号もメールアドレスもいつの間にか漏れてるんだろうね!?」
「誰かが教えたんじゃない?それか、無防備なあんたのことだから、気づかぬうちに携帯操作されてたとか」
「こわっ」
幸村くんほんと何者だ。反発に意味も込めて久しぶりに魔王と言おうとした途端にも一瞬頭痛がするのだから、本物だと思う。
(まさかどこからか監視されてる!?)
咥えていたストローを離して周囲を見渡すが、どこにも姿はなく。
「ねえどうしよう、明日から」
「諦めるしかないんじゃないの」
「他人事!」
「そりゃ他人事だよ」
「裏切り者!」
「どうとでも。ご愁傷様。」
ジュースを飲み終えた美佐は席を立ち、ドリンクバーへと向かって行った。
その姿を横目に、重たいため息を吐いてテーブルに突っ伏す。ああ、ひんやりしていて気持ちがいいな、とそのまま目を瞑って数秒後。
ブーッ、ブーッ
「!?」
ばくばくばく
比較的耳の近くに置いてあった携帯が震えた。心臓に悪すぎ!未だばくばくうるさい心臓をわざと無視して、携帯に手を伸ばして画面を開いた。
「……う、うわぁああ」
「どうしたの志眞、顔、真っ青」
「ど、どうしよう美佐」
ちょうど戻ってきた彼女に助けを求めるように、携帯の画面を見せた。
「しらばっくれてんじゃねーよ?」
「音読しなくていいから!てか、こ、こわいどうしよう青りんごこわい!!」
そう、メールが届いたのだ。青りんごから。
心当たりあると言われてから悩むこと数日、苦し紛れに、同じような展開繰り広げられてる学校もあるんだねその悩み抱えてる子と友達になりたいよはははと返していたのだ。もっと悩んでから返せばよかった。
それよりも、だ。青りんご、あの海のように心が広く優しい青りんごはどこへ行ったの!?これ同一人物とか嘘でしょ、誰かが青りんごの携帯を勝手にいじってるんでしょ!これじゃまるで不良だよ。
今までの彼の像がガラガラと音を立てて崩れていく。
「これさぁ、この人、身近な人物なのかもね」
「言わないで。」
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1日に恐怖のメールを2件も受信するなんてツイてない。あの後しばらく美佐から慰めの言葉をもらい、明日早いんでしょという現実を突きつけられて解散した。
「はぁ……」
「元気ないな、志眞」
「お父さん、明日、」
「明日から頑張れよ、おまえならできる!朝早いんだったよな、学校まで送るよ」
「あ、う、ありがとう……」
優しいね、優しいよお父さん。でも今はその優しさがつらい!
夕飯を食べ終え、お風呂にも入り、あとはもう寝るだけという状態。部屋の電気も消灯して真っ暗なのに瞼が重くなるどころか冴え切っている。
明日が楽しみすぎて眠れなくなる子供時代を思い出した。まったく楽しみではないのだけど、緊張で興奮してしまっているのは認めよう。
ピピピッピピピッピピピッ‥
「ぬぅうう」
大丈夫?ちゃんと眠れた?
時刻は朝4時、外から微かに聞こえるスズメのさえずりを耳にしながら薄暗い部屋で目を開ける。
どうにも身体が重たい。
これは眠れてないなと思いながらも、ベッドから這い出る。
着替えて顔を洗い、朝食はヨーグルトを。ぼんやりと朝のニュース番組を眺めていれば、2階からお父さんが下りてきた。
(行きたくないなあ)
車に乗り込み揺られること数分、見えてくる学校と、正門前に停車しているマイクロバスを見て、拒否反応とばかりに手汗が滲み出る。
「じゃ、頑張って」
そう笑顔で言われてしまえば大人しく車から降りる他なかった。
いざ、出陣である。
亀裂が生じた(完)
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