平凡 | ナノ

偶然会いました [7/15]


「はあ、疲れた……」


ようやく裕斗から解放され海から出られた。
ビチョビチョと滴る海水をタオルで拭き取り、海の家のお兄さん、もといバイト中の裕斗のお兄さんに借りたパラソルの下に座り込む。


「おかえり」

「美佐、あんたは早々に戻って来すぎ」

「いや〜体力ないし」

「いくつよ」


まったく、これだから文化部は……って、私も文化部なんだけど。さて、この景色を少し収めようかなと、ごそごそと荷物を漁りカメラを手に取る。


「撮るの?」

「うん」

「盗撮にならないようにね」


そんなのわかっているとも。ピンポイントに誰かを撮るわけない、風景を撮るのだ。

カシャ、カシャとシャッターを押す私の隣では、美佐がシャリシャリとかき氷(裕斗兄の奢り)を食べていた。傍から見たらどんな風に見えるのかな、変な組み合わせには違いないのだろうけど。



「ふー、泳いだ泳いだっと。あ、志眞、腹減ってない?」

「おかえり裕斗。うん、ちょっと減った」

「じゃあ今から適当に貰ってくるわ」


タタタ、と砂浜を駆けて行く裕斗の背中を見て、裕斗兄ご愁傷様、と小さく手を合わせた。



「ただいまー。ほら、焼き鳥貰って来た。夕飯もあるだろうからってこんなのしかくれなかったんだけど兄貴」

「いや、それで良いよ、うん」

「そうか?」

「裕斗って、お兄さんの使い方ひどいよね」

「ほんと、美佐と同意見。あ、食べ物だけだと喉乾くし、飲み物買ってくるね」


もっかい兄貴のとこ行こうか?と言う裕斗の頭をペシッと叩いてから自販機へ向かった。どんだけ奢らせる気なの。怖い。


しかしパラソルの日陰から出た時の日差しの痛さには驚いた。眩しくて目が細くなる。とりあえず人にぶつからないよう、とくに小さな子供は走り回るからそれに注意しながら歩いていれば、ぶつかった。注意していたのになんてこと!


「ご、ごめんね」

「あ、あ、ごめんなさい……」

「だから走るなって言ったじゃんかぁ!」

「だってぇ」

「……き、気をつけるんだよ」


「「うん」」



ドクドクドクドク(心臓の音)

歩いて去っていく子供の背中に手を振る。てかやっばい、丸井くんの弟達だよ今の!こっちの顔忘れてくれていたみたいで良かった……あんなの勘弁だから、またブンちゃあああとか言って叫ばれたら私終了だよ。



ガコン、

「あ、そうだ、コーラ振ってやろーっと」


自販機に辿り着きお金を入れてコーラを購入。キャップ外したところで、ブシャーッてコーラが噴き出すの人生で一度は見てみたかったんだよねと、ふふふと怪しい笑いを零しながら、冷たいコーラを手に持ち振り返った。


「やあ」


なんかいた。


「ええええええ」

「驚いた?」

「っ、なんでいるの」

「今日はレギュラーのみんなで海に遊びに来てたんだ。そんな時に、柿原さんが見えて」


「そうなんだ、奇遇だね、私も親友と遊びに来てたんだ」


なぜいる幸村精市。

私、てっきり丸井家が遊びに来ているのだとばかり思ってた。



「ここの海に遊びに来ると、料理が無料で食べられるから嬉しいよね」

「あんたも裕斗兄使ってるの!!」


バイトしてるのにお金が減るなんて悲劇だわ!


「てか、よく私に声かけようと思ったね。ひっどいこと言ったし、普通もう関わりたくないって思うでしょ。ちなみに私はカメラマン以外ではもう関わりたいと思わないので、そこのとこよろしく」




あぁ、何を言ってるんだ私は。

二人のもとに帰って来た私は妙に落ち込んだ。コーラを振るのも忘れてしまった。


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