平凡 | ナノ

実は楽しんでいた [5/15]


「…………」

「……」

「…………」

「……」


「どうして呼んだかわかる?」


とうとう、この時が来たのです。

私は現在進行形で、テニス部ファンクラブのお偉いさん8人に(なぜ夏休みに集まっていたのかはおいておいて)囲まれている。これってさ、今からリンチ始まります的なあれですか!?

しばらくどうしていいかわからず沈黙を続けていれば、一番威厳がありそうな人がそれを破った。威厳がありそうと言っても、この人達同い年だよね……廊下ですれ違ったことあるかわからないけど。


「どうしてって、それは、私が切原くんや柳生くんに直接、他のメンバーに間接的にひどいことを言ったってことでお怒りになり、」

「それよ」

「ですよね」

「どうしてそんなこと言ったの!」


「……」

「自分の身が可愛かったんでしょ」

「はい」

「そりゃ当たり前でしょ。仁王や丸井のファンは過激だから逃げたくもなるって」

「ちょっとそれ訂正しなさいよ」

「本当のことじゃない」

「っ、でも柳や柳生のファンの子は、何も言ってないけど、どうせ目で脅してるんでしょ」

「そんな子いるわけないじゃない!」



……ええええええ、お偉いさん方もそれやるんだね。

目の前で繰り広げられる口喧嘩に呆然としていると、とても同い年とは思えないほど綺麗なお姉さんが咳払いをした。


「ねえ、柿原さん」

「はい」

「私達は別に、あなたがカメラマンとして彼らに近づくのは構わないのよ」

「それは友達にも聞きました。でも、それでも近づくのは」

「まあファンクラブの子達にとっては、ずるいと思うし妬ましく思うね、そりゃ」

「でも柿原さんが彼らの写真を撮るのは、彼らから言われたから。違う?」


「そうですけど……まあ、正確に言えば罠に嵌った、みたいな」


今でも思い出すと腹立たしい。
なんなの切原くんのあの演技!(実際出てもなかったけど)涙で人を騙すなんて、女子じゃあるまいし!



「幸村くん達がそれを望んだのなら、私達は何も言わない。だから、あなたは周りを気にする必要ない。ファンクラブの子が何かしてきたのなら、すぐに言って」


助けになるから、と微笑む綺麗なお姉さん。(※同い年)

思わず涙が出そうになった。きっと私の顔が崩れたんだろう、くすっと口元に手を当てながら笑った。なにこの美女。


「どんどん仲良くなればいいよ!」

「ええっ?」

「あ、それ思った」

「だよね。だってほら、レギュラーが女子と楽しそうに絡むなんて今まで見たことなかったし、見てて面白かったんだもん」


「え、ちょ、待って同情じゃなくて!?」

「残念なことに楽しんでました」


チロ、と舌を出す誰かのお偉いさん。
そりゃね、関わりのなかった私から見ても、あいつらが女子と笑いながら話してるとこなんて皆無に近かったの知ってるけどさ……!


うわー、マジでか。……マジでか。



「あ、あと言い忘れていたけど」


美女が口を開いた。


「良い写真が取れたら、頂戴ね」

「は」


「もちろん幸村くん単独の」


ちゃっかりしてる。なにこの美女。


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