平凡 | ナノ

どうすればいいの [3/15]


夏休み突入してから早4日目。テニス部の夏休みの活動も4日目。炎天下の中よくやるなあ、なんて思いながらベンチに座ってシャッターを切る。私こそよくやるな。

別に、頼まれてはいないのだけど。スランプ脱出のために人間以外の被写体を撮りに学校へ来て、気が向いたらこうしてテニス部をレンズに収めている。


「休憩!」


そんな声が聞こえ、私もベンチを立つ。
カメラ片手にコートを出て、向かう場所は屋上。今日は良い具合に雲があるから、久しぶりに空の写真が撮りたくなったのだ。



ギィイイ‥

「あっつ」


重たい扉を開ければ、容赦ない直射日光。
日焼け止めは塗ってるけど、このチリチリと肌を焦がす感じ……ふっ、意味ないな。乾いた笑いを零しながらレンズを通して夏独特の雲を映す。


「あのちーへいせーん」


パシャ、

「あの雲の向こう、きっとある、天空の城」


なんてバカなことを口にしながら、撮りたての写真をディスプレイで確認した。うん、久しぶりだったけど、思いの外納得のいく写真が撮れた。もしやスランプ脱出!?

だったら良いのに。

ふうと息を吐き、カメラを下ろしてフェンス越しに見える小さなテニスコートを視界に入れた。目立つ目立つ、赤に銀にハゲ。


「距離が遠い?これがほんとの距離じゃん……今までが近すぎた、あり得ないくらい」



カシャンと音を鳴らしながらフェンスに寄りかかり、保存されたデータを見直す。ほとんどテニス部レギュラーだ。これが彼らの思い出となるわけだけど、衝動的に消去ボタンを押したくなってしまう。



ギィイイ‥

「!」

「あれ、志眞じゃない」

「部長……」


屋上の扉が開いて、誰が来たのかと顔を上げればそこには写真部の部長がいた。彼女も、今日の空が結構好みだから来たらしい。


「それにしても暑いね」

「そりゃあ、夏だし。屋上だし太陽近いし」

「溶けそう。って、あ、テニス部」

「んー」

「ねえ、ファンクラブ内で噂されてること、教えてあげようか」


「え?」


怪訝な顔で部長を見やれば、にんまりとした笑顔を浮かべていた。あまり良い噂じゃないみたい。たとえば、こんな感じかな。



「テニス部レギュラーの思い出を残すために写真部の例の子を専属カメラマンにしたってことは、まあ百歩譲って許してあげたってのに、私達の存在に怯えてか赤也くんや柳生くんに対して、要するにテニス部に対してひっどいこと言ったらしいわ!ふざけんじゃないわよー!!」

「……」

「え、なに、これなの?」

「大体そんな感じ」


改めて言われるとダメージが大きいな。


「周りの目、気にしちゃったんだ」

「そんなのずっと前からだし」

「気にするなって方が難しいか。でも言ったじゃない、気にしてないって」

「そうだけど、やっぱり過激派っていうの?そういう人達の視線はやばいわけ。で、この前までのテニス部との距離は本当に近すぎたわけ。これはまずいと思ったんです」

「自分優先、か」

「うん」

「だよね。志眞に限らず、他の子だってもしそうなったら自分優先よね」


テニス部との距離を更に縮め、ファンからの視線や陰口に耐えるか。
自分の今後を優先し、テニス部と距離を極力取り気まずい関係に耐えるか。


正直なところ、どちらも耐え難い話だ。


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