自分のため [2/15]
『では、有意義な夏休みを過ごすように』
長々とした校長先生の話を聞き終わり、たった今、1学期は無事終了した。一生徒の意見としては、その最後の有意義な〜ってセリフ言うだけで良いと思うのよ。
ざわざわと生徒達の声で賑わい始める蒸し暑い体育館から早く脱出したい。なのにどうして1年生から退出なの!?珍しいね!!
「志眞〜〜!」
「うわっ」
「ええ、避けんなよ」
「やだよ暑い」
危ない。裕斗に抱き着かれるところだった。
こんな暑いのに暑苦しいことしていられっか!という目で彼を見やるが、相変わらずの締まりのない顔で立っていた。サッカーしてる時とは本当に別人だ。
「夏休みはいっぱい遊ぼうぜ!」
「何言ってるの。あんた外部受験するって言ってたじゃん」
「う、そうだけど」
「だったら勉強するための休みでしょ、裕斗にとっては、ね」
「志眞ちゃんずりー!ひとりで遊ぶ気だ!」
「ひとりで遊ぶわけないから」
もうやだ疲れるこの人。そんな意を込めた視線をジャッカルに向けたが、華麗にスルーされた。
はあ、とため息が零れる。テストが終わってから今日までの数週間、写真部の活動という名のテニス部(レギュラー)専属カメラマンをしていた。
作った笑顔を向けなくなったところは、まあ良しとする。けど、やはりあの言葉がいけなかったのだろう、居心地が非常に悪かった。あのわんこが黙っているわけがないと思っていたけど、老け顔が怖いのなんのって……怖いんですよ。そんな状況下で頑張る私を褒めてほしいくらいだ。
でも別に問題ないんだ。
所詮カメラマンじゃないか。親密な関係なんて築かなくても、彼らが望むアルバムみたいなものは、写真を撮っていれば叶うことなんだし。
そして美佐に言われた通り、青りんごに相談をしたら、
「最後の学校生活が危うくなるよりは、そいつを突き放してやった方が自分のためにはなるんじゃね?」という返信がきて、文面からでは読み取れないけれど、なんだかいつもの優しさはなかった気がした。
そのあと返信ないし。怒らせたかな。
青りんごって友達想いなとこあるから、自分中心に考えた私のこと嫌いになったのかも。
自分のため……。
うん、そうだよ、自分の学校生活の平穏を確保するために言った。人間って結局は、自分が一番可愛いし大事だと思っているじゃないか。自分のためなら多少自己中になったって構わないはず。
傷つける相手が美佐や裕斗であれば、また違うのかもしれないけど、テニス部相手ならほんの少し時間を元に戻せばいいだけだもん。
――でもそうか、私、ジャッカルも傷つけた。
「なら、無視されても仕方ないのか」
「?なにが」
「ううん。私、決めたんだけどさ」
「おう」
「やっぱり夏休み、いっぱい遊ぼう」
「え、まじで!?」
「うん。まあ、真の目的は、裕斗の外部受験のための勉強を妨害しちゃおう!みたいな」
「ひっど」
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