平凡 | ナノ

良いこと知りました [24/26]


ファミレスとは打って変わり、静かで勉強のしやすい環境、図書館にやって来た。

右には美人……もとい柳くん。
左には魔お……げふん幸村くんという、立海生に目撃されたらそれはそれは全校に知れ渡ること間違いない組み合わせに挟まれて座っている私。なんだかひどく居心地が悪い。


「じろじろと見過ぎです」

「ちゃんと解けてるか見てるだけだよ」

「ああ。俺達の視線など気にせず、進めてくれて構わない」


「……無理無理どっか行って」

「え?」

「どこか行けないなら、二人もなんか勉強してよ。わからないとこ発見したら声かけるからさ、お願いします」


視線はもちろん、この空間がもう何より居た堪れないのだけれど。でも教えてもらうという目的が達成できないから逃げるわけにもいかない。とにかく私の手元に集中しないでくれ!

この願いを二人は受け入れてくれた。
柳くんはすぐに鞄から教科書やノートを取り出し、すらすらと問題を解き始めてくれた。が、幸村くんは静かに行動してくれるはずがなく。仕方ないなあ俺はほとんど勉強し終わってるのにどこを勉強しろって言うんだよとボソボソ恐ろしくて耳を塞ぎたくなるような言葉を呟きながら。



視線が外れたことにより、幾分勉強に集中できた。

やっぱり勉強に適しているのは図書館みたいな、静かな場所なんだな。改めてそう感じながら、ファミレス組はどうなっているだろうかと思いを巡らす。あの二人のことだ、すぐに帰ったに違い。




ブーッ、ブーッ

「! あ、ごめんメール」


こ、こんな時にメールが鳴るなんて!テーブルに置いていた私もいけないのだけど、思いの外大きい音で響いたのですぐに取り上げて握り締める。心臓バクバクだ。また手元に二人の視線がこちらに向いたことに、あはははと苦笑いを浮かべながら携帯を開いた。ああもう、やっぱり青りんごだ。

もう少しこちらの事情を考えてほしい、なんてどこの誰だかわからない青りんごに言っても無駄だけど、彼のせいにしておきたかった。



Form:青りんご
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まじ数学消滅しろー
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「……」


なんだこれは。いや、まあ、それには私も同意見だけど、わざわざこんなことを伝えるためにメールを飛ばさなくてもいいよね。どんだけ暇なの。

いいや、今は無視しておこう。あとで送るという決断は、私の記憶力によっては忘れ去られる可能性大だ。でも今は、この二人の間でメールの返信を堂々とできる人間ではないから仕方ない。


携帯を閉じて今度はポケットにしまい込み、再びシャーペンを握れば、隣から「返信しないの?」なんて問いかけ。



「急ぎの用事じゃなかったから」

「ふうん」

「“青りんご”か……変わった名前だな」

「いや、HNだから。ってメール見たの!?」

「見たくなくても見える」

「柳くん、ひどい」


ズバッと切り捨てられた気がした。美人で優しそうな雰囲気なのに、言うことは案外ひどいしデータ集めと称して個人情報収集して、なんて悪趣味だ。やっぱりテニス部だな。

ふう、と息を吐きチラと幸村くんに視線を向ければ驚いた。いや、なんか笑ってるんだけど。



「え、な、なに」

「いや、良いこと知ったなあと」

「良いこと!?」

「そ。ふふ、面白くなりそうだ」


「精市。あまり虐めるなよ」

「ああ、わかってるよ」


なんだ、良いことって。
よくわからないが、二人の会話について行けず、私は小首を傾げながら、途中になっていた勉強を開始した。


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