平凡 | ナノ

改めた方が自分のため [19/26]


ジャアアアアッ

「ッゴク、……っぷはぁ!」


あれから地獄だった。年上担当がどうしても私を当てたいらしく、集中攻撃にも程があるだろってくらい狙ってきて。私も、逃げることを諦めて当たっちゃえば良かったのだけど、頑張れとか逃げきれとか応援されたら当たってなるものか!て思い始めてしまって。で、結局負けたが。


無駄に汗をかいてしまった。ちくしょう。

そう思いながら生温い水を大量に飲み、美佐達のバレーボールの試合が始まるまで少し時間があったので、その前に休憩しようと木陰へ移動して木の幹に身体を預けながら座り込んだ。ぼんやり見つめる先では、サッカーの試合が繰り広げられている。


「……なんじゃ、先客がおったんか」

「げ、エロだ」

「げ、とはなんじゃ失礼な」

「しっしっ‥あんたが近くにいるとロクなことないような気がする」

「それはひどいのう」


俺のこと知りもしないくせに等々呟きながら、エロはそのまま木陰に入ってくると腰を下ろした。え、なにこの突然の急接近。
ぎょっとして彼を数秒見つめた後、すぐさま辺りを見回した。これこいつのファンに見られたら大変なことになる。が、幸いなことに女子はいないようで。この結果で良かったのかわからないけれど、とりあえずしばらくはここにいよう。涼みたい……でもなあ。やっぱり近くにエロ担当がいるのどうも落ち着かないわけで、移動しないかなと思いながらもう一度彼へ視線を戻せば、デジャヴだろうか。ドッジボールの試合前の時のように視線がぶつかる。


「……な、なに」

「いや、動きが忙しないと思ってな」

「そりゃあんたがいるから」

「なんでじゃ」

「ファンに見つかったら大変でしょ」

「俺が?」

「私が!!」

「そーか。……てか、柿原に言いたいことあったんじゃが」


私に言いたいこととは……な、なんだい。
じーっとこちらを見てくるので逸らそうにも逸らしずらい視線。唾を飲み込み、出てくるであろう言葉を待った。



「エロって言ってて恥ずかしいと思わんのか?」

「……え!」

「え?」

「うそ、私言ってた?」

「最初にな」

「ごめん忘れて」

「忘れろ言われても無理じゃな。まあ、赤也から聞いて知っとったけど、改めて本人の口から言われると引くな」


何がどうしてエロになったんじゃ俺は、と言いながら苦笑いを浮かべる。いやいや仁王くん、きみはどう見てもエロでしょう……じゃなくって、ナチュラルに口にしてしまうなんて。
そうだ、今まではこうして会話することもなかったから○○担当とか呼んでても気にすることでもなかったんだ。これってもしかして、呼び方を改める必要がありそう?


「呼び方、ちゃんとするね」

「ああ、その方が柿原のためじゃろ」



まともに彼と話してみたら、なんだかんだ良い人なんだと知りました。


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