何気ない一枚を [15/26]
やはりメモリーカードに被写体が人間(テニス部)ばかりじゃ見返すのも億劫だ。ということで久しぶりに屋上へと足を運んだ。
綺麗に咲く花を見て、ふうと一息。
ここはいつでも季節に合った綺麗な花が咲いている。誰が手入れしているとかそんなのは知らないのだけれど。きっと園芸部や美化委員の人達だろう。いや、もしかしたら校長かもしれない。
パシャ、
「……本物は綺麗なんだけどなあ」
一枚撮り、ディスプレイで確認してみてもなんだか納得いかない。ブレているわけでもないし、いつも通り撮っているはずなのに魅力を感じない。うんうん唸りながら交互に見ていれば、僅かに影が落ちた。
「綺麗に撮れてると思うけどな」
「うへ!?」
「ふふ、何だいその驚き方。色気ないね、ほんと」
「私に色気を求めても無駄だからね」
急に背後から声かけられればあんな声にもなるさ。色気がどうとか言うけどまず私は中学生だから!そして幸村くんもな!
ジトっとした目で爽やかな笑みを浮かべる様子を見て、ふと疑問が浮かんだ。
「幸村くんは、テニスしててスランプになったこととかある?」
「さあ、どうだろう」
「意外だね。ないって言うと思ってた」
「やだな、別に俺は完璧なわけじゃないよ。」
そう言って乾いた笑いを零す。その時の笑顔はそう、「またか」と呆れているような。私には幸村くんはまさに完璧そのものにしか見えない。スポーツもできて勉強もできて、顔も良い好青年。でも私と彼の間に流れた一瞬の微妙な空気で悟った。本当のこの人を知る人間はきっと少ないのだろうと。
少しの気まずさに陥ったのはほんの数秒。屈んでいた身体を戻した幸村くんが、「こっちに来て」と言って歩を進めたことにより解放されたのだった。とにかく後を追おう。立ち上がり彼の背中を追う。
「うわあ……綺麗!」
私のいた場所とは正反対の、屋上の角っこ。
ほとんど(きっと)園芸部か美化委員(もしかしたら校長)が手入れしている庭園から離れることはなかったから、ここの存在は知らなかった。
小さな花壇に、統一された種類の花。
「もしやここが校長」
「何の話?」
「あっ‥いや何でもない。
綺麗な花だね。向こうで咲いてるのも綺麗だけど、こっちの方が好きかもしれない」
「へえ、それは嬉しいな」
私の言葉にふんわりと微笑むと、幸村くんは花壇の前にしゃがみ込み、花弁にそっと触れた。
「ここは俺の花壇。無理言って作ってもらったんだ。向こうの庭園や校庭にある花壇も、美化委員だから手入れはしてるけど、こういうシンプルなのも欲しくなってね」
「一種類で統一されてるの綺麗。たくさん植わってるのも見応えはあるけど、こっちはなんだか癒されるね。その淡い色、好き」
「ありがとう」
「……!」
む、無性にシャッターを押したくなりました。
急に撮るのは悪いだろうし、何より部活の風景じゃないから切原くんのためになんかなるわけでもない。でもどうしても、いま、撮りたい。幸村くん花壇見てるし!!小刻みに震える手で、ゆっくりとカメラを構える。
パシャッ
「!」
「ご、ごめん」
音に驚いたのか目を丸くしてこちらを見てくる。怒られるかな、また金出せとか言うかな、と思っていたけれど、数秒後には「別に構わないよ」と優しく笑う彼がいた。
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