力で勝てず、顔でも [11/26]
「ようやく折れてくれたんだね」
「人生諦めも肝心かと」
放課後、とぼとぼと向かった先は男子テニス部の部室。中庭や屋上に行っても良い写真の一枚も撮れないって話ならばもう向かう場所はここしかなかった。
「って違うよ!?別に諦めたわけじゃなくて、これは自分がスランプから脱出するための」
「ふふ、わかってるよ。俺達を道具として使ってくれて構わない」
「あ、お話のわかる方で」
「ああでも、赤也との約束、撮った写真は現像して俺達に頂戴ね。柿原さん?」
「それはしますとも」
切原くんのために思い出の写真はあげるよ。
それに私、テニス部の写真撮るのはスランプ脱出のためだから彼らの写真なんて一枚も欲しくないから現像して渡してさっさと消去したい。
「本当、とことん俺達には興味無いね」
「ねえ知ってる幸村くん、(幸村くん以外の)ファンの子達の間では、恐れられてるんだってよ、なんでも心が読まれちゃうとかで」
「ああ……本当のことだしね?」
まるで聞こえていたかのように私の心をナチュラルに読んだ幸村くんに聞いてみれば、当然のことのように笑みを浮かべた。誰よりも彼らのことを見ているファンの子達の情報はやはり間違いじゃないんだ……しかしそれを包み隠さず明かす幸村くんもどうかと思うのだが。
「それじゃあ行こうか、柿原さん」
「あ、いや、私遠い場所で撮るよ」
「え?」
「ファンに目つけられたくないし……」
「柿原さん、俺達の思い出の写真、撮ってくれるんだよね?」
米粒のような俺達は要らないんだよ。
ああ、この人の笑みはどうしてこんなにも怖いのでしょう。
「百歩譲ってフェンスの外で。」
「俺達の顔を網越しに撮る気なの?」
「そうだけど」
「一番近い場所で撮ろうか。ベンチとか」
「そこは監督でしょ!?」
「生憎監督はたまにしか来なくてね」
「たしかに見かけないけど!」
じゃなくって別に今日撮るつもりはなくって。なんて言葉は耳にも入っていないようで、部室から出るため足を進める幸村くんは、私の横を通り過ぎる際、そうすることが正しく当たり前であるかのように腕を掴んできて。突然のことに理解が追い付かなかった私は、いったん彼の行動に従って身体がぐるんと向きを変えたけれど。
「いやいや待って!」
抵抗して足を踏ん張ってみるも、男女の差ってやつなのか、簡単に引きずられそうになる。涼しそうな顔してどんだけ力強いの幸村くん!
「……お願いだよ、柿原さん」
「あっはい、近くで撮らせていただきます」
色々と負けた気がして一気に力が抜けた私は、抵抗することも忘れてそのままテニスコートへと連れていかれたのだった。
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