平凡 | ナノ

良い所を5つ挙げよ [6/26]


写真部の後輩が、まさかファンクラブに入っていたとは驚きだった。好きだとかキャアキャア言っているのは知っていたけど、入るまでのレベルだったなんて……。


「ちなみに、誰かな」

「仁王先輩です」

「えっやめた方がいいよ!ここは柳くんあたりに」

「この前ファンクラブについて教えてあげたのに先輩そういうこと言っちゃいます!?」

「ごめんごめん。で、その紙なに?」


今日は久しぶりに部室に顔を出すかな、と来てみれば一枚のプリントと睨めっこしていたのだ。非常に気になるわけで。難しい課題だったら適当に流そう。



「仁王先輩の素敵な点を挙げて、今週末までに提出なんですよ」

「ああ、難しい課題だね」

「ある意味難しいです。だって仁王先輩、良い所いっぱいありすぎて何を書けばいいか」


「そっちかい」


チラと内容を見させてもらったが、まだ彼女が書いた文字はない。おい、そんなに困っちゃう課題でもないだろうに。
良い所を最低でも5つか……残念ながら私には5つも思い浮かびそうにない。むしろマイナスイメージなら5つでもそれ以上でも余裕なのにな。


「どうして1年早く生まれなかったんだろう」

「……仕方ないよ」

「クラスは違うみたいですけど、正直先輩が羨ましいです。廊下歩いてれば会えたりするんですよね!?こっちなんて切原しかいないのに、なんで3年生はいっぱい……!」

「ちょちょ、切原くんにひどいぞ」


ほんと、好きじゃない人には妙に厳しいんだからファンクラブ。



「それに、来年になったら卒業しちゃう」

「……」

「そのままエスカレーターで高校行くかもしれないけど、会える確率なんてもっと減っちゃって。私、今後の学校生活が鬱で仕方ないです」

「そ、そこまで……」

「うっ‥先輩人を好きになったことあります!?」


ひっひどい!!

あまりの言い様に驚きすぎて言葉が出ない私を知ってか知らずか、彼女はそのまま話を続けた。


「だからわからないんですよ。私、本気で仁王先輩が好きなんです……他のファンは彼が冷たいとかひどいとか根も葉もない噂を流してるけど、絶対仁王先輩は優しいんです!

それに、会えた日はすごく嬉しくなるんです。
目が合ったりでもしたら死んでもいいってくらいだし、ドキドキして、会えなくても同じ校内にいるんだって思うと授業もまともに聞けません。罪な人です仁王先輩は!」


そんな、語られても困る。
それに私が恋したことないって前提で話してるね?まあうん、初恋以降、どうしようもないくらい誰かを好きになるとか皆無だからそういうことになるのかな。

ファンはファンでも、こういうところは分かれるみたいだ。この子みたいに、本気で好きになってしまう人もいれば、アイドルを見てるようにどこか一線を引いてる人もいる。


大半はきっと、後者だろう。

本気で好きだって人は各ファンのお偉いさんとか、あとこの子みたいな物好きな子。



「どうしよう先輩ー!5つに絞れないです!」

「知らないよ」


乙女心ってのは、難しいね。


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