平凡 | ナノ

本人の前で爆笑 [4/26]


チクタクチクタクチクタク‥

「…………」

「…………」


い、居た堪れない!何がどうして私が丸井家に突撃する結果になった!?

顔が上げられません。
ふかふかのソファーに座って、テーブルには一応客人ってことで紅茶が出されましたが飲める雰囲気ではない。正面のソファーに座る年上担当がガチで怖い。


逃げようと思ったのに、やっぱり現役運動部員の足の速さはナメてはいけなかった。走り出して数秒で腕をガシッと掴まれて、思わず前のめりにこけそうになったからね。あれは危なかった。じゃなくて、謝罪しなきゃか。



「す、すみませんでした」

「なに、おまえやっぱ盗撮趣味なんだ?」

「いえ」

「っつーか、なんか恐ろしいわ。よりによって俺の弟達撮るとか」


はぁああ、と深いため息を吐きながらソファーに身を沈める年上担当は、私の行為にかなり呆れている様子。

ですよね。
運命ってやつですかね。別に盗撮しようとしたわけじゃないんだけど、こう、テニス部繋がりだとストーカーしてんだろって思われても仕方ない。あの子供二人からしてみれば、盗撮された……もんだよね。許可取るべきだったんだ。


「お詫びにこの写真現像してあげます」

「え、要らねえよ」

「なんで!可愛いんだよ、ほら見てってば」

「あん?」


ディスプレイに先ほどの写真を表示させてからカメラを渡す。機嫌が悪いのか、眉間にしわが寄っている……声も何気に低いし。
可愛いとかかっこいいとか笑顔が素敵とか色々言われている年上担当だけど、こう髪の毛真っ赤だし態度少し悪いし不良じゃないかと私は思うんだ。エロ担当も容姿含め行動も不良だし、切原くんも不良って言われれば納得できるし。

魔王担当とか、ほら、性格が不良じゃん。


あれれ、テニス部って不良の集団?

ああでも美人担当や紳士担当、老け顔担当は不良じゃないか……なんて思いながら、そろそろ紅茶飲んでも大丈夫な雰囲気だよねと手を伸ばしたと同時、バチッと視線が合ってしまった。そして手を引っ込める気の弱い私。あああ、紅茶。



「……じゃあ、現像、シクヨロ」

「っ!?……う、うん」


「なに肩震わせてんだよ」

「……ふっ‥しく、っシクヨロって……なにそれっ、かっこつけてる!?あっはははっ爆笑なんだけど!」


「お、おま……!!」


ダメだお腹痛い、ねじ曲がる!!
ぎゃはははは、なんて乙女らしからぬ笑い声を本人を目の前にして上げる。これ彼のファンにバレたら確実に絞められるかもしれない。


「あああクソむかつく。おい柿原、表出ろぃ。喧嘩してやらあ」

「きゃああはははは暴力反対ぃ」

「話しながら笑うんじゃねえよ!」


「……ぶふっ‥くくくっあははは」

「どっちにしろムカつく。」


殴りたい衝動に駆られてるのか、右手をギュッと握り締めた状態で堪えている年上担当。おー偉い偉い。いやいや、それにしても思いの外あのセリフがツボ。


「ね、ね、もっかい言って!」

「誰が言うか!いっぺんその口ガムテープで張り付けてやる」


ソファーから立ち上がり、何やら本気で私の口を塞ぎに来そうだと内心ひやりとしたが、リビングの扉を少しだけ開けて私達の様子を見ていた弟達がとんでもない発言をして。


「ブン兄いちゃいちゃいてるー」

「ほんとだ母ちゃんに言ってやるー」


「なっ!お、おまえら何覗き見して……!」


おまえら柿原の盗撮と変わんねえぞ!そう言いながらキャアキャア言って逃げる弟達を捕らえようとし始める年上担当。仲のよろしい兄弟だ。
なんだか笑い疲れてしまった。ドタバタ暴れ回る彼らをぼんやり見つめながら、出された紅茶を飲み干してから丸井家を出た。


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