平凡 | ナノ

猫と子供、それから [3/26]


「にゃおーん‥にゃっ」


うへへ、可愛い奴だなおまえは。
アウトドア派な私は、休みの日はとことん外に行って素敵ショットを探し求めている。

そして今、にゃんこにデレデレ。
少し遠くの公園までふらふら歩いてきたところに、この日向ぼっこをしていたにゃんこと運命の出会いをして。近づいたら逃げるかな、と思ったけれど、まったくそんな様子はなく、首輪をしていることから飼い猫だとすぐにわかった。人懐っこいにゃんこは大好きだ。


「ほれほれ、じゃれろ〜」


猫じゃらし代わりに、そこら辺に生えていた細長い雑草を抜いて遊んでいる。

もちろんすぐに撮れるようにカメラは首から提げて。しかしながら、この相棒が少し邪魔だなと思ってしまうほど、このじゃれ合いが楽しい。


「わーっねこだ!」

「!」

「ほんとだねこだー!」


ちょちょちょ、きみらそんなに騒がれると逃げちゃうから!

横からダーッと駆け寄って来た子供二人は、猫を見てかなり興奮気味の様子。小学生だろうか。しかし猫ってそんなに珍しい動物じゃないよね、なぜそんなに興奮しているんだいお姉さんには理解不能だよ。

地面に寝転がってじゃれていたにゃんこもびっくりしたのか、飛び起きて目を大きくさせた。あ、このまま逃げちゃうかなと思ったのだが、やはり人に慣れているからだろう、逃げることはなかった。それどころかひとつ欠伸をして、身体を震わす。首輪の鈴が小さく鳴った。


「にゃーん!」

「にゃーん!」

「にゃおおおん」



かっ……可愛すぎかな!?

目の前で繰り広げられる光景に、思わず胸がきゅんとした。これってシャッターチャンスじゃないのかと思い立った脳は、こうしてはいられないとすぐさまカメラに手を伸ばした。

子供はこちらに気づいていない。



パシャッ

「「!」」


急に近くで聞こえたシャッター音に子供は肩をびくっと震わせた。あ、驚かせてしまった。それとは対照的で、にゃんこはかなり寛いでいる様子で、また地面にごろんと寝転がると喉をグルグル鳴らしていた。


「おねえちゃん、誰?」

「どうしよう知らない人に写真撮られた」


「誘拐される!?」

「ちょっと待ってどうしてそんな考えに!?」


ドラマの見すぎじゃないのか!思わず大きい声を出してしまえば、子供二人はいよいよ恐ろしくなったのか、泣きそうな顔して「ブンちゃあああああ」と言いながら走り去ってしまった。ぶんちゃってなんだ。まあ、いっか。


にゃんことサヨナラをして、私は風景を撮りながら道路を歩いていた。

春とか秋とか綺麗な木々もいいけど、こうした青々とした、生きてます!て感じの木を撮るのも悪くない。季節によって違う顔を見せるから本当に自然は面白い。


「あ、小鳥」


今日は可愛いものに恵まれているなぁと頬を緩ませながら小鳥の写真を撮り終えれば、耳をつんざくような叫び声が響いた。



「あの人だよあの人ぉおおおお!!」


聞き覚えのある子供の声。
ゆっくりと右側に顔を向ければ、道路の曲がり角付近で私を指差しながら叫んでいる姿。おいおいきみ、人を指差すのは良くないんだぞ。


「ブンちゃああ」

「(だからぶんちゃってなん……)ブンちゃ」


なんだ、なんだろう、耳にしたことあるような。じわりと手に汗が滲むのを感じ、これはまずいかもしれないと危険を察知した。が、時すでに遅し。


「マジさあ、俺疲れてんのに全力疾走させんなっつのー……誰だよ盗撮や、ろ……あっ!?」



曲がり角から現れた赤色の髪を見て、脳がくらりとした。


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