逆らえる人間皆無 [2/26]
「はい、写真」
「うおおお!マジさんきゅう!」
何十枚もの現像した写真を手渡せば、裕斗は嬉しそうに一枚一枚じっくり見始めた。
「まさか、全員撮ってくれた……?」
「え、うん。思い出に欲しいって言うから、後輩含めて全員の姿を収めた方がいいかなあと」
「監督まで!!あああもう大好きだ志眞!!」
俺と結婚しよう!
いや、そんな、遊びに行こう!みたいな軽いノリで言われても困りますので、受け流しておく。むしろこの言葉を聞いたクラスメートの反応の方がすごかった。
はあ、と息をついて椅子に座る。
隣の席で嬉しそうに写真を眺める裕斗が、私のため息を気にして声をかけてきた。
「なんか元気ねえな」
「んー」
「この前なんかあった?おまえ何も言わねえし……気になるだろ」
「かくかくしかじかで専属カメラマンに」
「へえ……って、わかるかよ!」
なぜそんなことになったんだよ、と鋭い目をギラリとこちらに向ける。いや、そういう目はテニス部に向けていただきたい。
「とりあえずそうなっちゃったの。思い出したくないからそっとしておいて」
「お、おう」
「それにしてもこれからどうしよう」
「どうするって、何が」
「学校生活だよ」
専属カメラマンなんて役職を与えられてしまったからには、放棄するわけにもいかない。半ば強引だったし嵌められた感否めないけど、切原くんのあの悲しそうな表情は本当だったろうし一応写真は撮るけれど。
でもそうすると嫌でもテニス部と関わりを持ち始めることになる。いや、もう遅いんだけど。
「いっそイメチェンしようかな」
「たとえば」
「うーん……エクステ付けて化粧バリバリして、如何にもファンクラブです!って感じのギャル?」
「やめてくれ」
「うん。絶対にやめてほしいね」
「だろ!?志眞がケバケバだなんて俺泣く」
「そんな否定しないでよ。私の今後の学校生活が懸かって……って幸村くんんん!?」
なにナチュラルに会話に入り込んでるの、全然気づかなかったんだけど!
私達の背後には、すっごい笑顔の幸村くんが立っていてすごく怖かっ‥じゃなくて素敵です。
「おま、なんでここに」
「俺の専属カメラマンに朝の挨拶」
「ねえ、いつ幸村くん専用になったの」
朝の挨拶とかやめてよ。
毎朝この怖さを味わなければいけないだなんて絶対に不登校になる。ほら、しかも滅多にこんなクラスまで来ない幸村くんが朝からいるから女子のテンションやばい!
あれ?それにしても、今の裕斗の発言……。
「聞いてなかったんだ?俺と星沢、意外にも幼馴染なんだ」
「自分で言うなよ意外って」
「ああそう」
「…………ん?」
「ま、まさか二人が幼馴染だったなんてびっくりした!」
その微笑みで圧力かけられると、どうにも従わざるを得ない気がしてしまう。
でもまあ、意外と言えば意外だ。オーバーリアクションするほどではないけど。
「そんな素振り、裕斗見せたことなかったよね」
「だって嫌だろ。こんな幼馴染」
「面と向かって言うね。それは俺だってそうだよ、おまえと幼馴染なんて反吐が出る」
「……っ!」
「フッ」
「裕斗よわっ」
そして私はこの時本当に、幸村くんには逆らってはいけないんだなと学習しました。
テニス部のレギュラー達もみんなそうだけど、彼に逆らえる人はたぶんいない。それを考えると唯一逆らえる人間ってすごい人だと思うし、あわよくばそれに私がなってみたいが、今みたいな言葉を直接言われたら立ち直れる自信ない。……うん、大人しくしていよう。
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