拉致された [33/34]
きっと昨日のあの言葉がいけなかったんだ。
今ではすごく後悔しているよ、当り前ではないか。しかしもう遅いらしいということは、昼休みに突如現れた魔王を見てすぐに理解できた。あああ、逃げたい。
「ん?今、誰か俺のこと、魔王って……」
「ジャ、ジャッカルが」
「は!?おい、志眞おまえ何言って」
「そう。じゃあジャッカル、今日のメニューのグラウンド50周にプラス50周」
「(100周!?)」
「それから柿原さん」
「はっはい」
「カメラを持って、放課後テニスコートに」
「用事があっ‥」
「拒否権はないから」
にこっと笑って、魔王は教室から出て行った。
なんだ、あの有無を言わせない感じ。嫌だとはっきり言えなかった。むしろ言ったら自分の身が危険だと本能が察知していたような。
****
そして何事もなく放課後。
こっそり帰ればバレないのでは?
そう思った私はカメラを鞄にしまい込む。そんな様子を見ていたジャッカルが不審な目をこちらに向けてきたので、早く部活行きなよと睨みつけて言えば、あからさまなため息を吐きながら出て行った。
「じゃあね、美佐」
「お疲れー」
「あ、裕斗。この前の写真、来週には現像するから待ってて」
「サンキュー!お礼に今度なんか奢るな」
「んー」
鞄を肩にかけ、二人に手を振り廊下に出ようと歩み始めた。
「…………」
どうしよう。立ち止まりたい。
私の視線の先には、出入り口、なのだが。問題はそこに厄介な人間が二人いる。最悪なことに、年上担当とエロ担当がにんまりとした笑みを浮かべながら立っていた。
「やだ仁王くんと丸井くんよ!」
「こっちのクラスに来てくれるなんて……!」
「教室掃除しててこんな幸せが」
不幸の間違いだよ!?
どうりで教室内が少しざわついていたわけだ(目撃するまで気づかなかった)。立ち止まるとあまりにも不自然だし、もう片方の出入り口に切り替えたところで二人も移動するだろうしクラスメートの女子に何か疑われるのは嫌だと思ったため、仕方なく歩を進めれば目の前には二人が。
「通してください」
「ダーメ」
「可愛く言っても無駄。通せ」
「うわ、急に強気」
「幸村から言われとったはずじゃが?」
「何の話でしょう」
「しらばっくれても無駄じゃき。」
「そうそ。俺たち、幸村くんに柿原を(強制でいいから)連れて来いって言われちまってさー」
逆らえるわけねえだろぃ、と笑うと同時にガムの香りがふわりと匂った。どうやらグリーンアップルらしい……ていうか学校でお菓子はダメでしょ!
じゃなくて。どうしてくれようこの状況。
目の前にはアイドル・テニス部がいて、疑われるのは嫌だと思っていた気持ちがボロボロ壊れるように後ろからは女子のひそひそ声。それから裕斗の怒ったような声と、宥める美佐の声。
「テニス部に志眞はやんねーぞ!?」
「むしろおまえのものでもないでしょ」
「美佐はどっちの味方なんだよ、ああ!?」
「ぷっ‥あの二人がこの前柳が言ってた、親友ってやつ?」
「数少ない親友じゃろ」
「だからなに。言っておくけど、親友ってそういうものでしょ?」
親友たっくさんいるんだぜ、とか言ってしまう奴はどうかしていると思う。何でもかんでも話せる人がそんなにいるとか、ちょっと怖い。私の感覚だけれど。
「ふうん。じゃあそこの二人」
「んだよ丸井」
「柿原、ちょっと借りるぜぃ」
「なっ」
「ちょっと!?私に拒否権は」
「ない言われたじゃろ、幸村に」
「うわ、あ……!?」
妖しく笑みを浮かべたエロ担当は、いとも簡単に私の身体を宙に持ち上げた。
え、てかこれなに、担がれてない!?
お姫様抱っこよりはたしかにマシであると言えるが、この悲鳴はどうしてくれる!?
「おいこら、におおおおおお!!!」
「うるさい」
「うっ‥美佐のバカァア」
助けての意を込めて手を伸ばしたが、裕斗の怒号を一刀両断する美佐さん。それに怯んでしまった裕斗は、顔を覆ってその場にしゃがみ込む始末。
伸ばした手は虚しく終わった――。
「やだやだ下ろして!行きたくない!!」
「ほらほら、暴れっと見えるぜ?」
「う」
「大人しくしといた方が身のためだろぃ」
「元はと言えば、おまえさんが悪いんじゃし」
そうですか、もう疲れちゃいました。
私が悪いのね……いや、なんか納得いかない……勝手に私のカメラを使ったきみらが悪いんじゃないの!?ねえ、そうは思わないの!?
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