平凡 | ナノ

グラウンドにて [32/34]


キーンコーンカーンコーン‥

「志眞、今日は中庭にする?」

「うん。最近草木が青々としてきたから、撮りたい」

「よしきた。行こう!」


鞄を持って、美術部の美佐と一緒に中庭へ行こうと教室を出る。

お互い所属している部活は違うのにこうして行動を共にするのは……別に、意味はない。写真部の子達と仲が悪いというわけでもないのだけど、私はどっちかというと単独行動をしたいのだ。

え、美佐がいるんだから単独じゃねえじゃんって?写真部じゃないからいいの。近い場所で他のカメラがシャッター音鳴らしているのは気が散ってしまうから。


「あっ、おい志眞ー!」

「?」


廊下を歩いていれば、後ろから呼び声が。
この声は裕斗だなと思いながら振り返れば、ジャージ姿の彼が小走りでこちらに向かっていた。


「どうしたの」

「今日さ、」

「うん?」

「今からグラウンド来てほしいんだけど」

「なぜ。私は中庭に行きたい」


「思い出に。写真ほしくて」


頭を掻きながらそう言う裕斗。思い出の写真、ね。なんだか最近そういったものをバッサバサ消した記憶があるよ。


「引退の時期が近いから?でもそれなら大会の写真でも―」

「後輩と練習してる、何気ない写真がほしいんだよ。なっ、頼む!」

「引き受けちゃえば?人間撮るのも、きっと悪くないんだし練習台にしちゃいなよ」


「……わかった。引き受けてあげる」

「そう言ってくれると思ってた!あーもう大好きだ志眞、可愛い愛してる!」

「調子に乗るな」


そして私は目的地を変えてグラウンドを目指した。



ピーッ

ホイッスルが鳴り、赤と緑チームに分かれて練習を始めるサッカー部。最初の数分だけぼんやり見つめ、それからカメラを構える。

それにしても球技系のスポーツ、私には何が面白いのかまったくわからない。
サッカーはボールを追っかけるだけ。
テニスもボールを追っかけて打つだけ。
野球はボールを打って投げて走って。

とりあえずボールに振り回されるだけだよね。うん。



パシャッ

「……まあ、一生懸命なのは認めるけど」


何度も何度もシャッターを切る。
一度集中すると周りの音声が聞こえなくなってしまうのは、直さないといけないと思っているのだけれど。



「先輩」

「…………」

「志眞先輩!」

「…………」



べしっ

「おい聞いてんのかよ!」

「あたっ‥て、切原くん?」


肩から伝わった刺激で、ようやく声をかけられていたことに気づいた。

それより何用だろう。
まさか話しかけられるとは思ってもいなかったので驚きだ。


「何撮ってるんすか」

「サッカー部」

「へえ……写真、撮るの上手いっすね」

「まだまだ。もっと上手になりたい……誰もが魅了されるような、そんな写真をいっぱい撮りたいんだ」


ちょっと見せてと言うのでカメラを手渡せば、次々と写真を見ていく切原くん。すると、次の瞬間眉間にしわが寄った。


「俺が撮ったの、ない!!」

「え?」

「合宿で撮ったあの写真……」

「もしかして切原くんが撮ったの?」

「いや全部じゃないっすけど。じゃなくって消えてるってどういう……まさか全部、消した!?」



「当たり前じゃん。なんできみ達が勝手に撮った写真を残しておかなきゃいけないの?」


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