平凡 | ナノ

思い出消去 [31/34]


ほらよ。
そう言われて机に置かれたのは、約1週間ぶりの私の大事な大事な相棒、一眼レフ。テニス部の部室に連行されたあの日、あろうことか彼らの目の前であんたらのことなど興味ありません!的な発言をしてしまったら居た堪れなくなるに決まっているわけで。逃げ出したら宝物(一眼レフ)を忘れていたという、最悪な結末を迎えたのだった。
しかも翌日からG・Wに突入してしまったから取り戻すことも叶わず……家で号泣だった。


「お帰り私の相棒ー!」

「俺に礼はナシか」

「誰がするか。もう話しかけないで……柳くんのノートにもちゃんと二重線書いてもらったしもう親友じゃないんだから!」

「だから悪かったって!」

「嫌だ許さない。それから、どんなにお金に困ってようと1000円券とか貰っても今度から絶対にあげないんだから」


ふん、と顔を逸らしてからカメラの電源を入れて何もされていないだろうかとチェックをする。この間にもジャッカルはひどく慌てたように謝り続けていて。生活費が懸かっていることくらい知っているけど、でも許さない。


「なっ……なにこれ!?」


中身を確認した瞬間、まず最初に映し出されたのはまったく見覚えのない写真。
どっかの宿?それにしても撮り方下手くそだ……次の写真を見れば、なぜか満面の笑みの魔王がででーんと映っていて。うん、嫌な予感する。


「あ、そ、それは」


どうやら謝り続けていたジャッカルが私の異変に気づいた。
その声はしっかり耳に届いてはいたけど、返事をすることなく次へ次へとどんどん写真を見ていく。
数十枚は見たあとだった。はあ、とひとつため息をついてから隣で眉尻を下げる彼に視線を向けて。


「勝手に使ってたってわけ!」

「す、すまねえ……」

「ふざけんなよテニス部。全部下手くそ!ブレブレだし私のカメラにこんなの残したくない。はい消去消去」


「お、おい!一応俺達の思い出だぞ!?」

「は?知ったこっちゃないよ」


ギロリと睨みを利かせれば、今までのこともあってか、大人しく口を閉ざした。なぜ自分達の持っているカメラで思い出を撮らなかったのか不思議でならない。

そう思いながら片っ端からテニス部の思い出とやらを消去していたが、自分で撮ったテニス部や急に入り込んできたエロ担当の写真だけは消去ボタンを押せなかった。問い詰められるだけなのに、何をしているんだろうか。


「志眞!なーに見てるの?ってかジャッカルは何してるの。謝るの必死すぎて笑えるんだけど」

「あ、美佐……って重い」

「なにそれ仁王?なんであんたの写真に」


「あああああっ、と」


ディスプレイを覗き込まれていた。
ちょうどあの時のエロ担当の写真にしていたのを忘れていた。別に疚しい気持ちがあるわけじゃないのに、電源をOFFにしてしまった。


「志眞こそ、打倒テニス部じゃなかった?」

「う」

「この前も撮ったんでしょ?どうしたのあんた、まさかテニス部のファンにでもなった?ただでさえ人間撮らなかったくせに」


「志眞がテニス部のファンだと!?」

「来たようるさいのが」

「おいどういうことだ志眞!俺に、わかるように、詳しく話せ。そしてファンは辞めろ」

「勝手に話進めないでよ!誰がファンなんかになりますか」



相棒が戻って来たそんな日の帰り道、
オレンジ色に染まる綺麗な夕焼けを一枚、写真に収めた。


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