キッカケはあの時 [30/34]
「うわー、マジで撮ってる」
「見事に俺らばっかり。なんだ、志眞先輩も結局ミーハーだったんじゃねえか」
「赤也、残念そうじゃのう」
「えっ別にそんなことないっすよ!?」
カメラ盗られた。そして見られた写真。
パソコンの方に取り込んでおけばよかった……なぜ動かぬ証拠を持ち歩いてるの私。バカなのかな。
「あの、本当に悪気があったわけでは」
「じゃあなんで逃げたんだい?」
「(怖かったから、なんて言えない)」
「そっか、怖かったんだ、俺が」
「っっほんとにごめんなさい!!
なんていうか、さっき柳くんが言ったように、私本当に人間ってあまり撮らなくて」
「なんでっすか。これほとんど人間ばっかじゃん」
あれえええ、切原くんなんか怖いよきみ。
「赤也はミーハーが嫌いだからね」
「そ、そう」
「それで、撮らない理由とやらを教えてよ」
「……自然じゃないから」
盗撮がバレてからここに至るまでちょっとありまして、正座をしている私は、足が徐々に痺れていくのを感じながら膝の上で拳をギュッと握る。
なんでこんな事情をテニス部に話さなきゃいけないんだかさっぱりわからないけど、言えば逃げられるような気がした。
「人間ってカメラを向けると、笑顔を作ってピースとかするでしょ?」
「まあそうだろうね」
「そういうのが好きじゃない。どっちかと言えば、ふとした瞬間とか、カメラを意識していない自然な表情の方が好き」
「たしかにこれ、人間撮ってるけどカメラ目線ひとつもねえや。あ、これ仁王じゃん」
「……屋上のか」
「実は、それがキッカケ……だったりして」
尻すぼみになった言葉を耳にして、テニス部全員が揃って「は?」と発した。別にミーハー心に火が点いたわけではなくて、カメラを向けてたのに笑顔も作らず入り込んできたから驚いて。でも、しっかりと絵になっていて。
「その前までは本当に、影は写しても本体は撮らなかった。きっと仁王くんが私なんかに愛想ある笑顔を作る必要ないと思ったからすんごい無表情なんだろうけど……でもそれがキッカケで、人間撮るのも悪くないかなと」
「じゃあ、先日俺達を撮っていたのも自然な表情でテニスをしていたから?」
「おっしゃる通りです」
「そう。ミーハーじゃないんだね」
「誰がなりますかこんな連中に」
……あれ今、私の口、何言った?
← →
(しおりを挟む)