野郎ではありません [29/34]
ああああ、もう逃げられないよね。
てかなんですか見世物じゃないんだって!そんなじろじろ見られたら穴が開いちゃうじゃない!
顔、一生上げたくないなあ。
だって目の前のまお‥げふん、幸村くんったらすごい素敵な笑顔だったんだよね。そんなのを間近で見たら倒れちゃうね確実に。
「………」
「………」
「……怒ってないから、顔上げなよ」
無視、しちゃおうかな。
ん?でも待てよ?よく考えてみたら、ミーハーらしく振舞えば呆れてこの場から返してくれるような気がする。この際噂なんて忘れようよ。幸村くんは誰にでも優しい笑顔が素敵な男の子、人の心なんて読めるわけないじゃん!あはっあはははは!
「あの志眞先輩、俺着替えていっすか?」
「赤也、ちょっと黙ってようか」
「す、すんませ―」
「全然着替えちゃっていいよ!
むしろここにいるみんなも今着替えちゃえば!?すぐ部活でしょ?ほら、私男の子の鍛えられた身体が大好きでー!!」
「え、真面目に?」
「マジだよ!」
眉間にしわを寄せて訪ねてきた切原くんは、私の肯定の言葉を耳にした途端顔を歪めた。
私も今の私に顔を歪めたくなるし吐き出そうだ。でも彼が声をかけてくれたお陰か、幸村くんの顔を直視することはなかった。切原くんガン見中。
でもこうしないと逃げられないじゃん!ジャッカルとかいる時点であれだけど、彼ならこの私の気持ちがわかってくれる、はず!ただの変態な気がしないでもないけれど。
「おまえさん、見苦しいぜよ」
「なっ」
「この前は俺が写真に入り込んで台無し、になったんじゃなか?」
「あれは……恥ずかしかったんですよ!あまりにも仁王くんが近くで、ど、どうしたらいいかわからなくてツンツンしちゃいました」
なんてタイミングで登場するんだ。見苦しいとの言葉を受けて後ろに顔を向ければ、扉に背中を預け腕を組みこちらをジト目で見るエロ担当がいた。
これは幸村くんから離れられるチャンスと睨んだ私は、キャーッと黄色い声を上げながら若干の距離は保ちつつエロ担当に近づいて鞄から取り出したカメラを構えてみる。シャッターは押しません絶対に!
「3年I組 柿原志眞。写真部に所属し、大抵は中庭か屋上でひとり静かに活動をしている。風景や生き物を撮るのが主で、人間は撮らないようだな。また親友は同じクラスの星沢裕斗と久本美佐、それからジャッカルだそうだ」
「ぶふっ、すくねー!」
「人間を撮ることをしないということは、彼女ではないのでは?」
「俺達は別なんじゃね?」
なんか勝手に話が進んでるんだけどおおお。あんたらも別に特別じゃないですから。
てか美人担当!おまえ!
データマンらしいけどいつそんなの調べてるの!?親友の情報まで正確なん、……いや!
「柳くん」
「なんだ?」
「その親友リストからジャッカル桑原を外してもらえないでしょうか」
「なっ」
「……ほう」
そう願い出れば、すぐさまノートを取り出しぺらぺらと捲り、おそらく私のデータが書かれているのであろうページで止まり、ペンで二重線を引く音が部屋に響いた。よし、それでデータは完璧……じゃないでしょ何教えてるの私!バカか!
「ねえ、いつまで俺を無視する気?」
「! や、やだなあ無視だなんて……幸村くんの素敵な笑顔に興奮しちゃいけないって思って避けてたんだけど、興奮しても―」
「キモイんだよ盗撮野郎」
「きゃー幸村くん毒舌も素敵!
あ、でも私野郎じゃないから、女だから」
「ふうん。盗撮したのは認めるんだ」
……おっと、そこを訂正し忘れた。
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