なんてRPG? [28/34]
こんにちは!
結局絶交には至らなかった柿原志眞です。正直、元気ないです。絶望的というか、崖っぷちに立っているというか……。
「美佐ちゃん〜」
「しつこいよ志眞。諦めたら?」
「なんでそんなあっさりと!私たち、打倒テニス部仲間だったよね?なんで裏切るの!」
「そりゃあ打倒テニス部だけど、あたし、自分の身を犠牲にして仲間を守るだなんてそんなヒーローみたいなことできないから」
ごめんね、とわざとらしく肩を震わせて言う美佐。
そ、そりゃあ私の身を庇ったら確実にこの子も目をつけられるのかもしれないよ。でもそんなのひどいではないか。
「てか、今すぐに帰ればよくない?」
「へ」
「ダッシュで逃げ出すかと思ったのに、掃除中のあたしに泣きつくとかバカじゃないの。ジャッカル、そのうち掃除終えて帰って来るよ」
「は……!その手があった!」
やっぱり美佐は親友だよありがとう!そう言えば、ただ単にあんたの頭が足りなかっただけじゃないのと冷たく返されたが、その考えに至ることができないくらい気分が沈んでいたんだよ。
急いで自分の机まで駆け、サイドにぶら下げていた鞄を取り、教室からいざ飛び出そうと出入り口の方へ視線を向ければ。
「なんだ志眞、行く気満々か」
「ちがっ」
「足止めサンキューな」
「は」
「え、ああ……うん」
「なんだと二度目の裏切りっ‥ぐえっ」
す、と静かに黒板へ向かいチョークをいじりだす美佐に飛びかかろうとしたが、その前に私の首根っこがジャッカルに掴まれて強制連行。ちょ、ちょっと!?あんたがそんな野蛮な奴だったとは知らなかったよ!?
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「やだ帰る!ほら解放してジャッカル!」
「そう言われてもな」
「そ、そんな困ったような顔しないでよ。私がいけないことしたみたいじゃない!」
「(幸村に目をつけられるようなことを)実際したじゃねえかよ」
「あの時の私、ちょっとバカだったみたい」
もう時すでに遅し、ということは重々承知だけど、部室の前で最後の抵抗を。
ガチャって扉開けて、強引に背中を押されてしまえば女である私なんかすぐに押し込むことできるのに、それをしないのが彼の優しさなのか何なのか。
「あれ、ジャッカル先輩、部室入らないんスかー?」
「あ、赤也」
聞き覚えのある声。
そう、最近ワカメからわんこという担当に昇格(?)したばかりの切原くんだ。
「ってうお!?びびった……志眞先輩じゃないっすか。どうしてこんなとこに?部外者は立ち入り禁止っすよー?
……まさか先輩、ミーハー心に火でも」
なんで扉の前で立ち止まってんだよ邪魔だなって思っていたに違いない。ジャッカルの横からひょっこり顔を覗かせた切原くんの顔は、ガチで不良っぽかった。
しかし私の存在に気づいてしまえばすぐだった、いつもの明るい表情をパァッと浮かべて疑問を投げつける。というか最後のは何だ。ミーハー?
「なんで私がテニス部に対してキャアキャア言わなきゃいけないの」
「そうっすよねー」
なら心配ないっす、と言ってガチャ、と。
ガチャと、いとも簡単にドアノブを捻りやがりました切原くんこのやろう!あんた私がここに呼ばれている理由ほんとに知らないの!?それともわざと!?
ヒュオオオオオオ……
おかしいな。すごく不気味な風が吹いているよ。
ゴクリと口に溜まった唾液を飲み込む。なんというか、この雰囲気はあれによく似ている……ゲームの終盤、べらぼうに強いラスボスを目の前にしてちょっと怖気づいて立ち尽くしている様に。
そうだ、今の私はまさに、勇敢な勇者。
「臆病者、の間違いじゃないかな?」
――早く入れよ。
ぎゃああ最終ステージから声が聞こえて……!
ってか普通に人の心読みやがったあの人怖いいいいいい!
「悪い志眞、俺も怖いから入るぞ」
「やだ!やだやだ今の幻聴だよ!」
「悪あがきはよそうぜ。見てるから、すっげえ恐ろしいくらいの笑み浮かべて座って俺達を見てるから。よし、入る」
「ぎゃあっ」
ジャッカルは、押した。ぽん、ではない。
私の背中をドンと力いっぱい押して部屋の中に押し込んだ。
「やあ、待ってたよ。盗撮野郎」
勢いに負けて崩れ込むと、私の目の前には、それはもう恐ろしいくらいの笑顔をしたテニス部の部長さんがいらっしゃいました。
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