平凡 | ナノ

暇潰しに考えただけ [25/34]


「1週間クリアー!!」


朝起きて、おはようのメールを送ってから力強いガッツポーズ。っしゃあ!これで惨めな土下座写メを送らなくて済む。うおお、約束守ってよかった。

いつもより気分がいいので鼻歌歌いながらご飯食べていたらお母さんに怪訝な目で見られ、家を出る前に身だしなみは大丈夫かと全身鏡の前でクルリと回転してみればお父さんに完全に見られ、なんだか嬉しい気分が気まずい気分へと変わりつつあったけれど、それでも約束を果たせた効果は絶大だった。


「いってきまーす!」


「い、いってらっしゃい」
「気をつけるのよ……」



****





「そうだ、今日の放課後何を撮ろ──」

チリンチリンチリンチリンチリン!



「うるっさい誰だよ横通れるだっ‥ろ、」

「おはよーございまーす!」


うええええ、切原くん!?
ルンルン気分ですでに放課後のことを考えていたのに邪魔したのはおまえか!てか、朝からすっごいきらきら笑顔眩しくて素敵だけど、すっごいうざいから!


「ってか先輩言葉悪いっすよ?」

「そりゃ、耳障りなベル鳴らされれば」

「後ろ乗ります?」

「どうしてそうなったの」


俺の荷台、志眞先輩の特等席にしてあげてもいいぜ!なんて言いやがりました切原ワカメ。
うっ、眩しい。これが顔面偏差値が低い男が言ったら鼻で笑うのに切原ワカメだからなんか似合っちゃう罠。

しかし丁重にお断りだ。遅刻するわけでもないし。ふいと視線を外して歩き始めれば、これでもかと言うくらいベルを鳴らしまくる切原くん。眉間にしわ寄せて後ろを振り返れば不貞腐れたのか口元が尖っていた……じゃなくて、おい!近所迷惑だから!!



「わかった、乗るよ、特等席とかは置いといて、今日は2ケツしよう」

「やりー!」

「この前は重いとか言ったくせに」

「あぁあれ、嘘っすよ、嘘」

「私の耳には嘘に聞こえなかったよ」


そんなこんなで、肩にかけていた鞄をカゴに入れてもらい、荷台に座る。まあ、足も挫いていたことだし丁度良かった。



「そういや先輩」

「んー?」

「なんとか担当って、なんなんすか」


「見た目で決めただけだよ」


私の暇潰しに、と答えると、誰が何担当か教えてと言うので渋々教えることに。


「まず仁王雅治がエロ担当」

「ああ、まぁそうっすね」

「で、柳生比呂士が紳士担当」

「そのまんまかよ!」

「見た目で決めたって言った。で、ジャッカルが苦労担当」

「あー」

「柳蓮二が美人担当」

「え、柳先輩が美人?まあわからなくもないっすけど意外」

「真田弦一郎が老け顔担当」


「ぶふっ!!」

「わっ、ちょっと運転しっかりして!」


笑うだろうなとは思ったよ。素直な反応でよろしいけれど、後ろに人乗せてるんだから安全運転でお願いします。


「くくっ‥つ、次どーぞ」

「切原赤也がワカメ担当」

「は?それ撤回しろよ、マジ潰すよ」

「(こわっ)でも見た目……」

「俺の印象、まだ見た目だけなんすか」


少しだけ声のトーンが下がった。心なしか肩が丸まった気がする……これはもしかして、しょんぼりしているのか?
そうだなぁ、切原くんとは結構お話してるもんね(望んではいない)。うん、思えば人懐っこいイメージもあるし、改名してあげよう。


「じゃあ、わんこ担当ね」


そう言って肩をポンポン叩けば、「なんでだよ」なんて声が乾いた笑い声と一緒に漏らされていた。悪くはないらしい。


「それで次は─」


次のレギュラーを挙げようとしたと同時、後ろから声をかけられた。いや、私にではなく、運転手の切原くんに。


「丸井先輩じゃないっすか!おはよーございます!」

「なんだ赤也、もしかしておまえのアレ?」

「違いますよー。おバカな先輩っす」

「おバカって何よ。私、切原くんの前でおバカ発動した覚えないんだけど」


否定しねえのかよ、なんて声が横から聞こえるから、思わず丸井を見てしまった。そんな彼はククッと喉を鳴らしながら、手に持っていた携帯を、メールでも送信したかのような素振りを見せてからポケットへとしまい込んでいた。

その数秒後にポケットで振動する私の携帯。

……ん?
なんだこのタイミング。まあ、いっか。



「あれ、で、丸井先輩はなんでしたっけ」

「は?なにが?」

「丸井ブン太は年上担当。それじゃーありがと」


荷台から降り、鞄を受け取りつつ答えて、すぐにこの場を立ち去った。なぜかって、もうここは校門前だからだ。テニス部レギュラー(しかも一気に二人)といるところを見られてしまったらとんでもないことになる。とにかく3年レギュラーとは一番関わりたくないし。

後ろから「幸村部長はー?」なんて質問が投げかけられたが、こんな誰にでも聞こえてしまうような場所で、誰があんな恐ろしい言葉を口にできるか。


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