階段で紳士 [24/34]
まさか体育で失敗して足を捻挫するなんて。なんたる失態。
自慢できるほどでもないけれど、運動は人並みにできる私なのに、バスケやってて捻挫とか恥ずかしすぎる!
「1週間は走ったりしないようにね」
保健室を出ようとドアを開けたところで、最後の念押し。もう何回目だろう。わかってます、理解しましたから!走りませんのでこの子大丈夫かしらみたいな目で見ないでお願い!
「はあ、裕斗に見られたら爆笑される」
くそ、と小さく呟きながら、左足を引きずって我がクラス3年I組までの道のりを歩く。
長い。ひたすら長い廊下。
こんなペースで進んでいたら次の授業に間に合うかもわからない。
そして一番の難所、階段。ひとつため息を吐いてから、手摺に掴まって一段一段ゆっくり上がって行く。そんな私の横を、健康な人達が笑いながら駆け上がって行くわけで。なんだろう、このモヤモヤする感じ。私も駆け上がりたい!!
「どうしました?」
ぐ、と足に力が入ったと同時だった。なかなかに良い声が耳に届いて、後ろを振り返る。今この瞬間、階段にいるのは私だけだったからきっと声をかけられているのに違いないのだろうけど誰だろう。
「…………」
「……私の顔に何かついていますか?」
「……。」
「ええと、大丈夫ですか?」
まさか、また増えることになるなんて。
テニス部レギュラー3年
紳士担当“柳生比呂士”が追加された。
彼も、私の中ではテニス部優しい人メンバーのひとり。紳士って言われるくらいだし、人助けとか進んでやりそうだしね。
「見えてますか」
「え?」
「はっ!う、うわあはははっ、なんでもないです独り言!」
つい口走ってしまった!!
ほら、この前柳くんには質問できなかったからさ、意外と悔しかったんで……柳生くんならと思ったけどそれも違うよね!
(おおお、眼鏡光った)
「クラスはどこですか?迷惑でなければ、お支えしますよ。捻挫しているようですね」
「え、いいんですか」
「ええ。先ほどから見ていましたが、このままのペースでは確実に次の授業に間に合わないでしょうから」
「おねがいします。」
見ていたのならもっと早く声かけてよ!なんて思ったけど心の中に留めておく。これ以上私の印象を植え付けてしまうと、今後の人生が危ういからね!
とりあえずは、逆行なのかひたすらキラーンと光り続ける柳生くんの眼鏡をちらちらと見つつ、教室まで肩を貸してもらいました。ありがとう。
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