名前くらい、さ [21/34]
「志眞せんぱーいっ!」
ガバッ
「うお!?」
「うわ、色気ねえええ」
「急に後ろから突撃、いや、抱き着いてくるからでしょうが……!、ワカ、メ担当」
「また言いやがった!」
「だっ、て」
会わないとすぐ忘れるんだもん、私。
とくに年下には興味が無いし、レギュラーであっても2年生だからかあまり噂とか聞かないし……ぶっちゃけ存在感薄いっていうか。
「ひどいじゃないっすか!
だったら先輩、先輩が誰かに自分の名前を教えたのに次会って忘れ去られてたら……悲しいと思わないんスか!?」
「いや、別に。」
「え、あ、それ本気で」
「だって次に会うかもわからないし、それ以前に私が忘れてる可能性が高いから。他人のこと責められないじゃん」
「確かに」
「あー……じゃあワカメ担当よ」
「だからそれやめろっつの」
ギロリと睨まれたので肩を竦ませる。
私立場低くない?
この子年下だよね、なんで怯えてるのさ!
「あっ切原くんよ!」
「わああすっごい偶然!って、誰あんた」
あ、そうだ切原くんだった。
切原くんの姿を見つけた女子が、キャアキャア言いながら駆け寄ってきた。
そうして目に入るのはもちろん私。
抱き着かれている状態は終わったものの、今まだ密着度としては限りなく0に近い状態なのだから。そりゃあ睨まれるのも当然。
「あ、じゃあ私そろそろ部活に」
「活動してたんだ」
「当たり前でしょ。切原くんも部活でしょ、聞いたよ、老け‥じゃなくて副部長がすごく怖いんだって?」
危ない。少し油断すると老け顔担当と言いそうになるこの口縫ってやりたい。
時計を見れば15時半。
このくらいの時間からテニスコート付近が騒がしくなるのは知っているから、もう少しで活動が始まるはず。そう思って尋ねれば、切原くんは青い顔をしてダッシュでこの場から去って行った。
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