平凡 | ナノ

覚えるの苦手で [12/34]


「あ」

「あ」


なんという偶然だろう。
ここで会ったが100年目……という冗談は置いて。


「どーも」

「こんにちは、……ワカメ担当」

「は!?」

「あう。すんません名前忘れました」

「マジで言ってんの!うわ、ムカつく」


つかワカメ担当ってなんだよ、とグチグチ言いながら少年は名前を教えてくれた。


よし、覚えた。切原赤也くん。

しばらく会わなければまた忘れるかもと思ったけど、口には出さずにおく。怒られそう。




「そういえば部活は?今活動中だよね」

「あー、補習があって」

「へえ」

「はい」







…………うん。


会話なんて、ないよね、はっきり言って。



「あんまりさ、」

「?」

「ジャッカルのこと使わないでね」

「なんでそんなことアンタに言われなきゃなんないんスか」


その通りですけどね!

思えば彼らがジャッカルのこと使ってくれる、まあ言わばパシリにしてくれるから面白い愚痴も聞けるんだけど、でも不憫じゃないか!



「それにハゲに磨きがかかっちゃう!」

「は」

「間違えた、あれはスキンヘッドだ問題なかった。とりあえず、可哀相だ」

「それなら丸井先輩に言ってくださいよ」

「えーあの年上担当に?」

「(年上担当?)そうそう。それか仁王先輩」

「無理無理。私、テニス部の人と話したことないもん。ジャッカルときみ以外」



いきなり見知らぬ女が、ジャッカルのことパシらないで!なんて言ってきたら怖いでしょ。おまえテニス部の何を知って言ってんだよって思われるに決まってる。
それか、おまえジャッカルの彼女?ニヤニヤみたいな誤解までされるかもしれない。



「きみも悪乗りしなきゃいいの」

「面白いじゃないっすか」

「そりゃあね」

「……面白がってんのかよ」

「敬語抜けてる!ま、いいや。これから行くんだよね部活、頑張ってね〜」


私も綺麗な夕日をバックに写真写真、と思いながら切原くんにさよならする。

あっ屋上から富士山でも撮ろうかな!



ダダダッと廊下を駆けて行ったので、切原くんが呼び止めていたことにはまったく気づかなかった。


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