平凡 | ナノ

苦労してるきみに [10/34]


先日ファミレスにいたテニス部レギュラーの一部は、ジャッカルに奢らせたらしい。やっぱり苦労担当だなぁなんて思いながら、彼の愚痴を聞いている毎日。去年からそうだ。


「可哀相なジャッカル」

「だろ!?あいつら調子に乗りやがって、あれからケーキとか言い出すし」

「男子が4人でケーキ!ははっ、可愛いな」

「笑いごとじゃねえんだよ。財布が薄いぜ」


ポケットから取り出してパタパタと振られる財布は、空っぽ、という感じがして虚しかった。小銭の音すらしないとは。
少し恵んでやりたい気持ちもあったけど、私だって今月ピンチなのだ。他人のために削れるほどのお金は持っていない!ごめん!


「あ、代わりにこれあげる」

「ん?なんだよこれ」


ジャッカルが手を伸ばし、私の手から受け取ろうとした瞬間、横から素早く他の手が伸びて来てそれを奪い去った。


「志眞からプレゼントとか貰うな」

「……おまえかよ」

「裕斗!横取りはよくないよ!」

「なんで志眞はジャッカルに優しいんだよ!その優しさ俺にもくれよバカァアアア」


「や、やるよそれ」

「ほんとか!」

「ダメ!返せ。ジャッカルにあげるの」


もう、だからいつまで経っても苦労人なんだよジャッカル……その優しさが自分を苦しめてるってことくらい理解してるんでしょう!?もう!バカ!


「苦労してるジャッカルくんへ」

「……嬉しいような、嬉しくないような」

「そんなこと言うならあげないよ」


「いや!貰う!ってかもう貰ったからな!」


彼の手に渡ったプレゼントを見れば、ジャッカルの目はキラッと光る。
それもそうだ。だってそれ、5000円券だから。駅地下に入ってる全部の店で使えるとーっても素晴らしいもの。私のお母さんがそこで働いているから貰ったのだ。



「サンキューな、志眞」

「喜んでもらえて光栄でーす」


急いで財布の中にしまうジャッカル。

大丈夫だよ、誰も盗らないって。みんな、ジャッカルが苦労していること、知ってるからさ。


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