お昼を過ぎた頃、雲雀くんは風紀の仕事とかで家を出て行った。あの学ランを翻して歩いて行く後ろ姿を見送ってから、私はヒバードへと視線を向ける。
『もう帰ろうと思う』
『そうなの?』
『うん。猫になったきっかけは全然わからないんだけど、そのうち戻りそうだし。それに、もういいんだ、わかったの。雲雀くんは動物が大好き。だから、私にも優しくしてくれただけ……これ以上、猫の姿の私に優しくしてほしくないから』
『ナマエ、ヒバリのこと好きなんだね』
『……うん』
それじゃあ、短かったけどお世話になりました。とヒバードに別れの挨拶をしてから、ついさっき雲雀くんが通った門を通り、道路に出た。
コンクリートは冷たい。
ぶるり、と身体が震え上がるのを感じながら、私は少しだけ慣れた四本足で実家へと向かった。
鈴の音をリン、と鳴らしながら駆けて行き、ようやく実家が見えて安心したと同時だった。
「わっ!?」
ぼふん、と音すらしなかったものの、白い煙に包まれたと思えば、視界いっぱいにはコンクリート。もう少しで激突してしまうところだった。ふと視線をずらせば、人間の手のひらが映り込んで。
「も、戻った……?」
あまりに突然過ぎて、何が何だか。気が抜けたように地面に座り込み、1日くらいしか猫になっていなかったのに、とっても懐かしく感じる自分の手。まじまじと見つめていれば背後に人の気配がして。
「ねえ、並盛をそんな格好で出歩くのやめてもらえない?」
「え……っ雲雀、くん」
「きみ、並中生なの。だったら尚更だよ。早く家に帰ってよ、一体どういう神経の持ち主なわけ、パジャマで出歩くなんて」
振り返ればそこには、お昼まで一緒に過ごして、優しい笑みを向けてくれていた雲雀くんだった。
案の定、人間の私には優しくない。
やっぱりそうだよね、と思っている一方で、傷ついている自分もどこかにいた。
そして雲雀くんの言葉に、私は固まるしかない。私、今、パジャマ姿!?
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