とりあえず私は家から出た。
玄関からはさすがに扉が重すぎるし、第一ドアノブまで手が届かない。家の中を探し回って、鍵の掛かってない窓を運良く発見して脱出が成功したのだった。
今、外を歩いての感想といえば。猫だから、もふもふの毛皮に覆われているのはわかっているんだけれど、気持ち的には全裸で歩いているようなもので、すごく恥ずかしい。
「にゃあ……」
疲れた。まさか猫になると、我が並盛中学校に行くことすら不可能になるのか……いや、不可能じゃないけどかなり遠くに感じる。
ぽてん、とお尻を冷たい地面に下ろして座る。
鏡で見たけど、結構美人……美猫?だった。残念ながらブランドにゃんこってわけではなさそうだったけど、顔は整ってるし尻尾もすらっと長いしで、とりあえず野良猫にしとくには勿体ない!と思わせるには充分な猫である。
今が春休み中で助かったよ。しかも、両親は二人で仲良くスペイン旅行だ。家には誰もいない状態だから、帰れなくなっても問題はない。だから誰か拾ってください!家に帰ったところで飢え死にの道しか残されていないんです!
「ヒバリ!ヒバリ!」
「うるさいよ」
どうしようどうしよう、誰か拾えー、と思いながら電柱に頭を預けていれば、聞き覚えのある声がして、ピクンと耳が反応した。
チラと視線を向ければ、そこには小動物大好きで有名(私の勝手なイメージです)な雲雀恭弥が歩いていた。
「…………」
「……」
「野良猫にしては、綺麗だね」
「……にゃぁあ」
バチリと目が合ったかと思えば、お褒めの言葉を頂き、ぺこりと会釈をした。猫の姿だけどさ、そう言われたらやっぱり照れちゃうよね。えへへ。
「へえ、人間の言葉がわかるの。面白いね」
「……!?」
ひょいっと私の身体を持ち上げる雲雀くん。猫の身体だから軽々と持ち上げられて当然なんだけど、やっぱり慣れない。どうしよう近い!私、重くないかな!
「……」
初めて見た、雲雀くんの微笑み。やっぱり小動物には優しいんだなこの人、なんて思いながらジッと彼の顔を見ていれば、彼も私のことをジッと見てきて。あうっ、これはあの、見つめ合っちゃってます!!
恥ずかしさから視線をパッと逸らせば、彼はフッと笑って、こう言った。
「ヒバード見ても襲わないみたいだし、僕の家に置いてあげるよ」
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