君キン | ナノ


pipipipipi..

「ううー……もう朝?」


アラームの音が鳴り、眠たい目を擦りながら枕元に置いてある携帯に手を伸ばした、その時だ。


ゔお゙ぉい!
電話だぞコラァ!!!


「ひっ!スクアーロ!?」


これ、実は着信音である。自分で設定しておいてなんだけど、今の今まですっかり忘れていたせいで無駄に驚いた。


「も、もしもーし」

『オレだ』

「はいはい、リボーン。朝からどんな用で?」


電話の相手はリボーンだった。オレだ、との言葉にオレオレ詐欺ですかぁ?なんて言った日には終わりだ。きっと受話器を通して銃弾が飛んで来るに違いない。


『おまえ、雲雀に何か言っただろ』


「え?えー、ナンノコトー」

『とぼけんな。昨日、そのことでずいぶんと厄介なことになったんだからな』

「ふうん」


ムスッとしてる。そりゃあ、了承得ずに約束しちゃって悪かった……いやいや、そんなことはない。あたしだって勝手に約束された被害者だもん、仕返しだ仕返し!


「でも結果オーライでしょ。あたしだけよりも、恭弥先輩も味方の方が幸先いいと思うんだけど」

『それもそうだが、雲雀が素直に手助けすると思うのか?』

「思わないよ。ただ、避難場所として応接室を借りようとしてさ……それに、あたしスカウトされちゃったし」

『風紀委員の仕事だろ、知ってるぞ』


案外リボーンと恭弥先輩って繋がってる時あるよなぁなんて思いながら、昨日の京子と花のことを尋ねた。あの後色々話し合い、彼女達を先に帰宅させたのだ。

何もなかった、との言葉を聞いて胸を撫で下ろした。そして思い出すのは教室の風景……常盤は何もなかったかのように明るかったし、何より教室に戻って来ない京子のことなんか誰も気にかけていなかった。唯一ひとりだけいたような気もするけど……あれは、単に痛めつけてわからせてやりたいのが理由だろう。


沢田綱吉……あんた、Sだったの?人は見かけによらないって言うけど、あれじゃあすっかり騙されちゃうよね。女の子に手を上げるなんて、男として最低だ。ザンザスは違う、手じゃないもん、物で攻撃だから。



『優奈』

「ん?」

『無茶するなよ。嫌になったらやめてもいいんだからな、この任務』


勝手に決めたくせに、そういうこと言うんだ。ほんと、勝手な人だ。


『おまえはすぐに相手を挑発させる言葉を口にすっからな、気をつけろよ』

「はーい」

『9代目も、ヴァリアーの奴らも、ディーノもだ……おまえのこと心配してんだからな』


「ふふっ、みんな心配性」


思わず困ったような笑みを浮かべてしまう。こんなところに来て、人生初のモテ期到来ってやつだ。笑っちゃう。



「あっごめん、そろそろ支度しなきゃ」

『そうだな。あと、保健室も逃げ場だぞ』

「え、ああ、シャマル?そうだね、今度挨拶しに行こうかな……じゃあ、切るね」


通話を切り、いそいそと支度を始める。実は今日から風紀委員の仕事で呼ばれていたりいなかったり……いや、呼ばれているのです。まあ、電話がかかって来たお陰で二度寝して大失敗することもなかったから、リボーンには感謝だ。因みに現在朝の6時である。

透明な袋から取り出したのは、昨日学校帰りに恭弥先輩に渡されたセーラー服。なんでも並盛中学校は昔、制服は学ランにセーラーだったらしい……うん、そんな話を聞いた(読んだ)ことあった気がする。


しかし1日で制服が変わるとはね。苦笑いを浮かべながら、新品のセーラー服に袖を通して、朝食を食べて学校へと向かった。








「おい起きろ」

「んー……まだねむぅ」

「起きろダメツナ。早く起きねぇとその頭どうなっても知らねーぞ」


カチャリ

「うわっ!?起きるっ、起きるから銃はしまえってリボーン!」


早く起きねぇのが悪いと言いながら渋々銃をしまうリボーン。まったく、なんて目覚めの悪い朝だ……目を擦りながらベッドから起き上がり、身支度を始めた。


「……なあリボーン」

「なんだ」

「京子ちゃん、今日も来るのかなぁ」

「…………」


「昨日さ、久々に来てたんだ。考え直してくれたのかなって思ってたけど、また愛莉ちゃん傷つけてた。前はあんな子じゃなかったのにな」



そうだ、前の京子ちゃんならあんな暴力を振るったりしなかった。
毎日笑顔で、可愛くて、オレの憧れでさ……進級するまでは仲良かったのに……どこで崩れた?

なんか気分が落ちるなぁなんてため息を吐いたら、リボーンもわざとらしいため息を吐いた。む……気分悪いな。


「おまえはどうしたいんだ」

「どうしたいって……別に、どうもしたくない。本当は京子ちゃんのことだって傷つけたくないんだ。でも、愛莉ちゃんを虐める、許せないことだから手を上げちゃうんだ。だから正直言うと、学校に来てほしくないんだよね……どっちも傷つけたくないから」

「(まだ気づけるか……?)それ以外に変わったことはねーのか」

「変わったことねー」


毎日学校に張り巡らされたアジトに行ってるなら、わざわざ聞かなくても知ってんだろうけど。その考えは封じ込める。どうしてもオレの口から聞きたいらしい……だから銃は突きつけんなって!!


「そういえば、昨日岸本さんって人が来たな。イタリアからって言うから、さっそく獄寺くんが疑っちゃってさ、屋上に呼び出すし大変だったよ」

「そうか。そいつ、何か言ってたか?」

「ええっと、獄寺くんに向かって煙草は吸うなとか。まともな意見だよな、ははは」


チラ、とリボーンを見れば「そうか」と言いながらなんか企んでいそうな悪い顔をしていた。おいおい……!


「何か企んでないだろうな!?」

「何疑ってんだ。ほら、ダメツナは早く学校行け」


「いったァ!」


リボーンに足蹴にされて、部屋から追い出されてしまった。なんだよ機嫌悪いのか?とひと睨みしてから時計に目をやれば、今のままじゃ間に合わないことに気づいて、オレはパンをくわえながら家を飛び出して学校へ向かった。




キーンコーンカーンコーン

「うわっ!もう鳴ってる──!!」

「ストップ。」

「えっ……えっ岸本さん!?何してんの!」


赤いスカーフを着けた紺地のセーラーを身にまとったあたしを見て、沢田はかなり驚いた表情。制服をひと通り見た後の彼の視線は、ただ一点を、そう……左腕の腕章に。


「まさか……それって、」

「えへへ」

「あはは」

「恭弥せんぱーい!ここに一名遅刻者がいますよー!」

「(ギャアアアアやっぱり風紀委員!)」


大きな身振りで恭弥先輩を呼びながら横目で沢田を見れば、かの有名な絵画のようになっていた。


「優奈、仕事の流れは説明したんだからいちいち僕を呼ばないでよ」

「(名前呼び!?)」


ジトッとした目でこちらを見る恭弥先輩だけど、ほんとは咬み殺したいんでしょ?


「きみ、2−A 沢田綱吉……遅刻常習犯。」

「すみませんっ今度から気をつけます!」


ダッと地を蹴りダッシュでこの場を去ろうとする沢田だけど、逃げる草食動物は追いたくなるのが肉食動物ってもの。

彼が後ろを振り向けば、トンファー振り回しながら追いかける恐ろしい恭弥先輩。沢田は物凄い叫び声を上げながら校舎へと入って行った。さて、あたしも行こうか。




2−A

教室の前まで行くと、他クラスと同様に賑やかな声がする。今日は、昨日のこともあったから京子はお休み。大丈夫だから学校行くよ、と言う彼女を無理やりそうさせたから……ちょっと悪いことしたかな。

ガラッと音を立てて教室に入れば、一瞬静まり返ったけれど入って来た人物を確認するなり再び楽しそうな会話が飛び交い始めた。



「はよ、岸本」

「おはよう山本」


席に着くなり、隣の爽やかボーイがこちらを向いて挨拶をしてきた。まあ、別に悪いことじゃないしむしろ清々しい気持ちになれるわけで、あたしも笑顔で挨拶を返した。そして会話は、昨日、校内見学という名目で授業に出ていなかった時の内容につながった。


「オレ数学わかんなくてさー」

「人間やればできるよ。……ね、獄寺!」


「あ゙ぁ!?」


ガラリと扉を開けて入って来たのが丁度獄寺だったのを目にして、なんとなく話を振ってみた。何の話をしているのかもわからないから彼のその反応は当然だと思う……けど、そんなに睨まなくてもいいではないか。


「数学なんてさ、初歩的な公式を覚えちゃえばあとは簡単じゃない?」

「数学は応用だからな。ふん、おまえ、アホのくせにわかってんじゃねーか」

「アホじゃない。(中学生相手なら)上位狙えちゃうと思うけど」

「ケッ、本当かよ?」

「岸本って頭良いのなー」

「あっはっは!きみ達がバカなのだよー……うそ、嘘です。って煙草!大体、室内ってのは禁煙でしょう!」

「(問題はそこかよ)……チッ」


調子乗り過ぎるのは危険だ。
頭に血が上りやすい獄寺が煙草に火を着け、武器を取り出し、着火しようと導火線に近づけるまでの時間はわずか数秒。スピード勝負だったらイイ線行ってると思う。

でも、こういうのは楽しいな。ここに京子がいてくれたら何倍も楽しさが増すのに……アイツがいるせいでこういった日常が全て消え去ってしまう。


その現実にため息をついていると、山本が何かに気づいたのか口を開いた。


「そういや岸本、制服違うな」

「あ、これ?」

「テメッそれ以上捲ったら……果たす!!」


セーラー服になったのを疑問に思った山本に指摘され、ああこれでしょ?の意味で裾のところを軽く引っ張っていたら、おそらくお腹が見えたのだろう、横にいた獄寺は顔を真っ赤にさせていた。欠伸とかする時はなるべく腕伸ばさないようにしなくちゃ。



「昨日、校内見学してたら雲雀恭弥って人に会ってさぁ……それで、色々あって風紀委員に入らされたの」

「端折り過ぎじゃねーのか?」


まあ細かいところは気にしないの!と、顔を真っ赤にしたままの獄寺の背中を叩きながら笑っていると、ガラッと扉が開いた先には、ぐったりとした沢田の姿が。



「10代目!?どうかしたんスか!」

「あ、獄寺くん……」

「沢田、もしかして今までずっと追われてた?」

「あはは、まあ、うん」


「それは悪いことをしちゃったね。あたしが仕事内容ばっちり覚えていれば、わざわざ咬み殺されることはなかったのに」

「(その悪そうな笑み!絶対覚えてたって!)」

「嘘だと思ってる?残念、ほんとの話だよ。昨日の今日で覚えられないもん」

「うう……!」

「なんだツナ、遅刻して雲雀に捕まってたのか」

「おまえの仕業だろ、覚えてないとかふざけんじゃねー!10代目に謝りやがれ!」


ドジだな、と言いながら沢田を慰めるように肩をポンポン叩く山本の隣で、なぜかあたしは獄寺に怒られていた。怒鳴られるのは好きじゃない、わざとらしく眉間にしわを寄せて耳を塞いだところで、チャイムが鳴り響いた。

クラスメートが自席に座る中、ある人物が来ていないことに気づいた。

HR中、担任の話を聞きながら見ている先は、窓際の一番前の席。昨日いたはずの常盤愛莉の姿が見当たらないのだ。遅刻だろうかと思った矢先、担任の口から彼女は休みだとの報告があった。


そうか、休みなのか……なら、京子を登校させてあげればよかった。




なぜかこの日、休み時間を挟む度に沢田達3人はよくあたしに話しかけてくれた。昨日転入してきたことや、山本の席が隣だからということもあるんだろうけど……にしても、常盤愛莉が今日いたらと思うと背筋が凍る。

そして学校での1日が終わる頃には、だいぶフレンドリーになった。


「じゃあね、えーっと……」

「無理に名前で呼ばなくてもいいよ。山本のスピードに合わせる必要もないって」

「いやっ、でも友達だしさ!」

「そう。じゃ、明日の朝、期待してるね」


とびっきりの笑顔を添えて言えば、沢田は少々頬を赤らめて教室をダッシュで飛び出して行った。おーい、きみの想い人は京子でしょう?


「じゃあまた明日な、優奈!」

「バイバイ山本」


ひらひら手を振って山本を見送る。そういえば、男子から名前で呼ばれるのは初めてだ……今までずっとあだ名だったし、なんだか気恥かしいな。教室から出ようとする獄寺が目に入ったので、バイバイと挨拶したらそっぽ向かれてそのまま無視。ひどい。



さて、と……。


「はーなちゃん!」

「わっ……優奈、あんたねぇ」


黒板を綺麗にしている花に向かって声をかければ、思った以上に驚かれてしまった。今日1日、ずっと話していなかったから(沢田達のこともあって)、悪いことしたかなと思っていたけど早々にため息をつかれた。


「あんた、あいつらと仲良くなってどうするのよ。明日になったらどうなるかわかってんの?」

「わかってます。でも、1週間はこの状態をキープしなきゃいけないし!」

「キープしたいなら話さなきゃいいのに」

「だって来るんだもん」


えへ、と付け足し言ってみれば小突かれた。

それから少しだけ花と会話して、学校から出る直前に恭弥先輩と遭遇し、なぜかトンファーを持ち出され学校内を追いかけ回された後、無事帰宅することができた。


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