バタン……
パタ、パタ、パタ……ボフンッ
「……いい加減、気づけ、か」
いきなり呼びかけられたかと思えば、半ば引きずられるように路地に連れて行かれて。その状況に上手く対応できないまま、どうして10代目のお傍にいてやらないんだと怒鳴られて。
そして最後には、その言葉だ。
オレらの敵であるはずの岸本にそんなことを言われたのが、よっぽど衝撃だったんだろう。どうやって家に戻って来れたのかも全然覚えていない。
「そういや、なんであいつのこと敵視し始めたんだっけな、オレ」
ようやく冷静になって考えれば、最初に浮かんだ疑問がそこ。ああ、そうだ、常盤さんをカッターで刺したんだ。それからオレ達は岸本を敵扱いして。気づけば誰よりも傷ついているのは岸本だった……でもそれは当然の報いだと思ったし、オレ達は何の疑問も持たずに動いていた。
「ちげぇ。疑問、持ちたくなかったんだ」
疑問を持って、答えを知った時……
「やめだ!やめ……考えんのは、」
どうして常盤さんはイジメを受けた?
──そういや、本当の理由は知らないな。
いつからあいつは笹川を利用してた?
──イタリアにいたんじゃなかったか。
直接常盤さんに手を上げたの見たか?
──いや、全部事後。
そもそもなぜ笹川から標的ずらした?
──笹川を守るため、とか。
どうしてあいつはオレを怖がった?
──そんなの、暴力受けたからだろ。
じゃあ、常盤さんは?
それ以上に非道なことをされたのにも関わらず、常盤さんは普通にそのことを話したし、オレ達を怖がることもなかった。
──実際に、受けていないからか?
「いや、待て。そんなのわかんねーだろ」
考えたくないのに次々と出てくる疑問と、仮の答え。その仮の答えが、全部常盤さんにとっては不利になるものばかりで。ハッ……常盤さんが嘘ついてるってのか!?そんなわけねーよな、どうして彼女が嘘をつかなきゃいけねーのかわかんねぇし。
そうは思いつつも、どこかモヤモヤ。
知りたくない。
本当のことなんか知りたくない。
だけど、きっとオレは知ってる。
その答えを封じ込めているだけで。
そして、その答えを確実なものにするために、10代目は岸本と向き合った。オレや山本に距離を置かれるかもしれないことをも恐れずに。
ああ、オレとは全然違うな、あの人は。
知ってしまうことへの恐怖から逃げずに立ち向かえるなんて、さすがは10代目だ。そんなお方から、オレは逃げたんだ。信じたくない、という自分の気持ちを貫き通して、逃げたんだ。
「くそっ……右腕として情けねぇな」
ガバリと身体を起こし、オレは駆け足で家を飛び出した。
そうだ。いつまでも子供みたいに真実に恐怖して背を向けてばっかじゃいいけねーんだ。
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