プルルルル、プルル、ピッ
『おーう、なんだリボーン』
「おまえんとこに、優奈いねーか」
『ハハッ、おまえにしちゃあここを尋ねるのが遅かったな、珍しい』
「うるせーぞシャマル。こっちはツナのことで大忙しなんだ」
4日前からツナが帰って来ない。
優奈を捜して連れ戻すようなことを言ってやがったから任せたが、まさかあいつが行方を晦ますとはな。それに、ツナのことしか眼中にねぇ獄寺……いつもなら、血眼になって捜し回るだろうが、今回は動きがねぇ。何かあったとしか言いようがない。
『そうらしいな。で、優奈だっけ?午前中までは保健室にいたな』
「やっぱおまえのとこにいたのか」
『悪いな、優奈に止められてて連絡入れられなかったんだ』
「いや。で、午前中までってどういうことだ」
『今はもう保健室にはいねーし、学校も出た後……たぶんだが、ボンゴレ坊主を捜しに並盛町を歩き回ってるんだろうよ』
優奈が、ツナを?
またどうしてそういうことになったんだ。そもそもツナは優奈と接触できたのか?
『なぁリボーン』
「?」
『もしかしたら、ボンゴレ坊主が行方不明になった原因はオレにあるかもしれねぇ』
「は?どういうことだシャマル」
『ああ、実はな──』
数分後、シャマルとの電話を切って、一番に口から出たのは舌打ちだった。
「チッ、だから獄寺の奴静かなのか」
まさかスクアーロと接触してたとはな……そりゃあ、ツナの疑問も解消するわけだ。あいつがその時何を言ったか知らねえが、そのせいで山本と獄寺からの信用は皆無に等しくなったってことは確かだな。おい、どうするつもりだ、ツナ。
「行方晦ましてないで早く戻って来やがれ」
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「突然呼び出して悪かったのな」
「ううん、平気。で、どうしたのぉ?」
ニコニコと笑顔でやって来た愛莉に、本当のことを言うのが少し躊躇われた。4日前、ツナ……いや、沢田があんなことを言ったなんてほんとは信じたくなかったけど、実際にこの耳ではっきりと聞いてしまったから。
「愛莉に、知ってほしくてさ」
「うん?」
「4日前、愛莉は途中で帰っちまったみたいだから知らねぇだろうけど、その時沢田が寝返った」
「寝返った!?え、どういうこと!?」
「岸本は何もしてない、イジメも、笹川も襲ってないって言ってたんだ」
知った途端の愛莉の驚いた顔。ああ、言わなきゃよかったかな、なんて少し後悔もする。けど、言わなかったら後々大変なことにもなりそうで……だからその前にと、こうして呼び出したわけだ。愛莉は優しい子だから、何かの間違いだよと困惑しながら言うけど、でも全部オレが聞いた、事実だ。
「そんな……、ツナくんは優奈ちゃんのことを許したの!?愛莉が、いっぱい傷ついたの知ってるのに……どうしてぇ!!」
両手で顔を覆い、膝がから崩れ落ちる愛莉。
本当だよな。
どれだけ愛莉が傷ついたかを知ってるくせに、あいつは裏切って、もっと愛莉を傷つけた。
どうして、とひたすら泣き喚く愛莉の肩を優しく撫でているうちに、沢田に対しての怒りがどんどん増大していった。どうして愛莉が泣かなきゃいけねぇんだよ、傷つかなきゃいけねぇんだよ……!
「勉強とかスポーツとか、そういうのダメでも、こういうことに関しては鋭いって思ってたのによ」
そう思ってた。頼りなさそうに見えて、でも、いざって時には頼りになる、そんな奴だと思ってた。だからオレは、ついて行くって決めたのに。
「……」
「ほんと、見損なったわ」
「そう、だね。──バカ、だね、ツナくん」
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「……くそっ」
ツナが行方不明になったぞ。
リボーンさんにそれを聞いたのは、もう3日も前のことだった。あまりにも衝撃的な事実に、その時頭の中は真っ白になって、早く捜しに行かなければと家を飛び出しそうと身体が動いた。でも、その瞬間に蘇ったのは、あのお言葉。
岸本はやってない。
イジメも、京子ちゃんを襲ったのも……。
脅されてないよ。
オレが、そう思ってるだけ。
そうして途端に動かなくなる身体。
オレは10代目を信じていたいけど、でも、そんな根拠もないことを言う10代目は、信じられない。
岸本がやってない?
そんなのどうして言い切れるんですか。今までのこと、ずっと見てきたじゃないですか……赦せないって、言ってたじゃないですか。
「わっかんねーよ、もう……」
ごろんとベッドに横になる。オレはもう3日間ずっと家に籠っていた。
10代目を信じることのできない自分、10代目を捜しに行けない自分……。──ああ、腹が立つ!!なにが、10代目の右腕だよ!?
くそ、と壁に拳をぶつければ、ふと枕元にあった携帯が光っているのに気づいて、手を伸ばした。送信者は、常盤さんだった。
From 常盤愛莉
件名 無題
突然のメールごめんねぇ?
今日、武くんに会って、聞いたんだ。ツナくんが優奈ちゃんのことを許すようなこと言ったって。正直ね、すごくショック。それって、愛莉のことはどうでもいいってことでしょ?
隼人くんは、愛莉のことそんな風に思ってないよね?
不安になっちゃって……。
パチンッ
「…………」
携帯を閉じた。
なんだか、今は何も考えたくなかった。
でも、このままでいいのか?
そんな風に考える自分もどこかにいて。10代目を信じる信じないで悩んでる前に、どうして10代目がそういう考えに至ったのかを考えるべきなんじゃないのか?
「でも、知りたくねえんだよ。色々と、」
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「もう、どこ行ったのかな……」
商店街、神社、公園、図書館、その他たくさん。もしかしたらいるかもという気持ちで歩き回ってみたけど、あの特徴的な髪型は見つからない。
もともと並盛に関しての土地勘がないから、どこまで行ったらいいのかもわからないし……下手したら、黒曜以外の町に出ちゃうかもしれない。迷子になるなんてオチは嫌だからなぁ。
オレンジ色に染まった大きな太陽。
綺麗だな、なんて思うよりも、なんだか今はその光景すら寂しく見えた。彼も、この夕焼けをひとりで眺めているのかな。
「……捜す!」
太陽なんて見てる暇ない。
今は一刻も早く沢田を見つけなくちゃいけない。4日間も行方不明になってるってことは、おそらく、その分食事だってしてないはずだ。
本当のことだって言うつもりだけど、まずはその前に、もっと優先すべきは10代目の命を守ること。彼が死んでしまっては、ボンゴレはもう終わったも同然。沢田の顔写真が印刷されている紙をクシャリと握り潰し、また駆け出す。
どこにいるかなんてわからない。
ただ、早く見つけなくちゃ、そんな気持ちばかりがあたしを急かしていた。
数時間後……
ピンポーン……ガチャ、
「遅かったね」
「見つかんなかった」
「だろうね。他の奴らにも捜索させてるけど、見つかる気配は一向に見られないよ」
「(やっぱり)」
どうりで風紀の人いっぱい見たわけだ、なんて思いながら先輩のお宅へお邪魔する。あたしが想像していたのとは大違いで、ただのマンションだった。なんかほら、もっと和風のでかでかとした家に住んでるのかと思ってたんだよ!
「先輩、もう夕飯食べました?」
「うん」
「ですよね、もう9時ですしね……あたし、コンビニで適当に何か買って」
「そんなことしなくていいよ、そこにある」
きみの分、と指差す先を見れば、真っ白いお米とほうれん草の胡麻和え、そしてメインはハンバーグ。ハッ、先輩の大好物じゃないか!
「せせせ先輩が作ったんですか!?」
「他に誰がいるの」
「うわぁ、うれしい……!」
「でも、今回だけだから」
うわーい、とさっそく食卓についてお箸を手に取ったところでその一言。笑顔のまま表情が固まってしまった。
「聞いてる?僕の家に住むってことは、家事全般が優奈が持つってことだよ」
「なんですかそれ!」
「やらないって言うなら、保健室に逝け」
「!?漢字がなんか、違うような!ううう、やります、家事全般喜んでやらせていただきます!」
そう言えば、恭弥先輩が不敵な笑みを浮かべて、更に風紀の仕事も手伝ってもらうからと条件を上乗せしてきた。拒否できないと知ってるからだ。
わかりましたやりますやります。もう反抗する気も起きなかった。半泣きになりながらも、これならまぁ退屈にはならないだろうし……と、自分を納得させるためにそう思い込むことにして、先輩の作った夕飯を口に運んだ。
「あ、恭弥先輩」
「なんだい」
「京子って、どこに入院してるんですか?」
「……行くつもり?」
「お見舞い行きたいです」
「並盛病院だよ」
「ありがとうございます。あ、それから」
「?」
「先輩の手作り、美味しいです」
「……そう。」
明日は京子のお見舞いに行こう。それに、もしかしたら沢田がいるかもしれないという少しの期待を抱きながら、静かに夕飯を食した。
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