「おいツナ、どーいうことだよ」
「10代目!岸本がやってないと、どうして言い切れるんですか!?今まであいつは、散々常盤さんにイジメをしていたし笹川まで襲ったんスよ!?」
「……」
言い切れるわけじゃない。まだ疑問はいくつもあるから。でも、
「岸本はやってない。イジメも、京子ちゃんを襲ったのだって」
「そっそうか!あいつに脅されてるんスね、そうなんでしょ10代目!!」
ガクンガクンとオレの肩を揺らす獄寺くん。信じたくないという気持ちが痛いくらいに伝わって来る……きっと、前までのオレもこんな風だったのかもしれない。
「脅されてないよ。オレが、そう思ってるだけ」
「10代目……」
「見損なったぜ、ツナ」
「!」
ギロリと睨みつけて来る山本に、ゾクリと背筋が凍った。こんな表情が、彼にできるなんて。いや、きっとしていたんだ、オレが見ていなかっただけで。
「愛莉がイジメられて、笹川が襲われたの見たってのに、ツナは岸本を信じるんだな。ハッ……こんな奴がオレの親友だったなんて、バカみてぇ。じゃあなツナ……いや、沢田」
「山本!?」
「おい!10代目になんてことを!!」
冷たい目、冷たい口調。山本が怒ったのを見るのは初めてじゃない……けど、オレ自身に向けられたのは初めてだった。沢田だなんて呼ばれたの、久しぶりだな、まるで中学生になりたての頃に戻ったみたいだ。
「っすいません10代目……オレも、今日は帰ります」
眉間にしわを寄せ、困ったように笑いながら、獄寺くんもオレの前から去って行った。いくら10代目の右腕だ、と毎日言い張っている獄寺くんも、今回ばかりはオレの言うことには納得できないみたいだ。
「……バラバラだ」
空を見上げて、ポツリと呟く。
泣きたくなるくらい心臓は締め付けられているのに、どうしてだか、涙が流れることはなかった。
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「このマンション?」
「はい、おそらく」
何階あるのかわからない高層マンションを見上げる。期末試験頃から、優奈ちゃんを偵察するために何人か部下を手配し、ようやくここかもしれないという情報が入った。
「そう。でも、まだ入らないわ。愛莉だけで確認するのもつまらないし、可愛いボスと素敵な騎士二名にも見てもらわないとねぇ」
ふふ、と口角を上げる。
優奈ちゃんがもしマフィアと関係ある人間なら、ツナくん達はもっと警戒するはず。──ああでも、ツナくんは違うかもしれない。
さっきのスクアーロとか言った人、ボンゴレの暗殺部隊。“何か”に対して物凄く怒ってツナくん達に襲いかかっていたけど……その“何か”は、優奈ちゃん絡みかもしれない。
だったら、直感がよく働くツナくんは、優奈ちゃんはボンゴレ関係者であり、自分達の味方だと判断するはず。でも、武くんや隼人くんはどうかしら?
ツナくんみたいに、本当のことを知ろうとする勇気がないから、きっと彼から離れる。ボンゴレは、バラバラになる。
「ふふっ」
「あ、愛莉お嬢様……?」
「ツナくんのお陰ね!ボンゴレはもうすぐバラバラになって、結束の欠片もなくなる」
そしてその時が、ボンゴレの最期!!
「優奈ちゃんにはガッカリだなぁ。愛莉のファミリーを調べるために来たんでしょうけど、愛莉の圧勝ね」
口角の上がった自分の唇を指先でなぞる。
今ね、愛莉とっても楽しいの。これでパパの思い描く未来になるんだと思うとゾクゾクしちゃう……これでこそ、マフィアの世界よね。ボンゴレの思い描く未来なんて、生温いのよ。
「さ、パパに報告しなくちゃ!」
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