「ほんとにごめんねぇ?」
申し訳なさそうに、でも本当に反省しているのか定かではない表情をして、愛莉ちゃんは謝罪の言葉を述べる。
「別にいいって」
「締め出されちまったけどな」
「うわーん、ごめんね隼人くん!」
「なっ、別に気にしてないっスよ!?」
上目遣いで謝る愛莉ちゃんを直視してしまった獄寺くんは、咄嗟に目を逸らしていたけど、すでに顔は真っ赤。確かに愛莉ちゃんって、可愛いもんな。
「あ、急用だったんじゃないの?」
電話の内容はわからなかったけど、愛莉ちゃんは通話相手に対してすぐに行くと言って電話を切っていた。なのに、病院を出てからもオレ達と別れる様子もなく、一緒に並盛商店街を歩いている。
「うん、でもまだ平気」
ドガァアアアン!!
ニコリと微笑んだと同時、突如鳴り響いた爆発音。音のした方に目を向けると、建物から白煙が上がっているのを見つけた。
「まさか敵マフィアか!?」
「いや、まさか」
「行ってみようぜ、ツナ!」
「え、ちょっ」
二人はよくこういうことに首を突っ込みたがる。獄寺くんはすぐにマフィア関係だと疑うし、山本に至っては興味本位。
前方から逃げて来る人々を避けながら、オレも二人の後を追おうと地を蹴るその前に、愛莉ちゃんには危ないから帰った方がいいと告げる。だけど。
「愛莉も行く!」
「えええ!?」
「愛莉だって、ツナくんのファミリーだもん!」
ここは帰るって言えよ!
思いたくないけど、本当にマフィア関係だったりしたら、彼女には危険過ぎる現場だ。彼女の答えに呆気に取られていれば、一足先に走り出した愛莉ちゃん。何としてでも止めて、帰らせなくちゃと思い走り出せば、向かう先から獄寺くんのダイナマイトが爆発する音が聞こえた。
「ゔお゙ぉおおい!!」
「ハッ、ハッ……っなんで、あいつが」
「てか、オレ達に攻撃するなんて」
「いやあああっ怖いよぉおおお!」
現場に辿り着いた時、すでに獄寺くんと山本は傷だらけ。そして、勢いだけはよかった愛莉ちゃんに至っては物陰に隠れて、怖いと連呼。
「って、今の声、もしかしてスクアーロ」
特徴的な叫び声。視線を建物の上へと向けると、太陽の光に照らされてキラキラと輝く銀色の長い髪を持った男の人。あれは間違いなく、ボンゴレリングを賭けて戦った暗殺部隊、スクアーロ。でもなんで日本に!?
「よぉ、来たかぁ次期ボンゴレ10代目ぇ」
「!」
建物の上から飛び降り、オレの目の前に着地したスクアーロからは、突き刺さるような殺気が。
「むしゃくしゃしてんだぁ、気晴らしにオレと遊ばねーかぁ?」
「いや、これは遊びじゃないだろ!」
「おいテメェ!何のために日本に来たんだ」
「任務に決まってんだろぉ」
「これが任務ってわけじゃねーんだろ?」
へらっと笑いながら言う山本に視線を向け、確かにそうだがなぁ、と小さく呟くスクアーロ。
「だが、オレはお前らを殺す方を優先させてーんだ……わかるかぁ!?」
「「「!!」」」
ギラッと鋭くなる眼光。さっき以上の殺気を纏うと、オレ達の言葉など聞かないとでも言っているかのようにすぐに剣を構えて走り込んで来た。が、それをなんとか止めたのは山本。あの戦いからずいぶん経ってるし、成長している証拠なのか、あのスクアーロと対等に戦っている山本。
って、そうじゃない。オレ達が戦う理由なんてないんだ、止めなくちゃ!
「山本!スクアーロも!!やめろって、オレ達が戦ったって意味ないだろ!?」
「意味ない、だとぉ?」
山本と剣を交えながら、スクアーロは、聞き捨てならないというような険しい表情をしてこちらを見てきた。
「ひっ」
「おまえらにゃ理由はねーだろうなぁ……だが、オレにはちゃんとした理由がある。──おまえ達を殺したいほどの理由がなぁ」
「じゃあスクアーロ、その理由ってのはなんだよ?知らないままじゃあんまりだぜ」
その言葉を聞いて、一旦剣を引いて黙り込むスクアーロ。彼は今何を考えている?オレは、ただ彼の言葉を待つことしかできなかった。
「おい、スクアー」
「てめえらは嘘か本当かも見分けられねえのかぁああ!?」
「……っ」
嘘か本当かも、見分けられない。
きっとその言葉に敏感に反応したのは、オレだけだっただろう。今オレが考えなければならない、最重要にすべき内容だから。
何が嘘で何が本当なのか。そんなことを考えていると、オレまで人間不信に陥ってしまいそうだ。
「なんだよそれ、嘘か本当かだ?誰が嘘ついてるって言うんだよ」
「さぁ?あ、岸本じゃね?」
「あ、なるほど。冴えてんな、野球バカ」
「おい、今なんつったカスガキ」
「びっくりした……スクアーロがなんで怒るんだよ、意味わかんねーのな、ははっ」
「いいかカス鮫!」
一歩前に出て、口を大きく開ける獄寺くん。あ、待って、それ以上言ったら……。そんな思いは知られるはずもなく、獄寺くんは息を吸って、言葉を吐いた。
「嘘ついてんのは岸本っつー、最近オレ達の周りで悪働いてる奴だ!そいつしかいねーんだよ、わかったかコラ!」
「…………」
「スクアーロに言ったってわかんねーだろ」
「ゔお゙ぉい……ふざけんじゃねーぞぉ」
俯いていて表情は確認できない。でも、今までの殺気とか比べ物にならないくらいの殺気を身に纏っていることは、すぐにわかった。
「!!」
やばい、直感でそう思った。
ダッと地を蹴り山本と獄寺くんのもとに走り出すスクアーロ。まだやるか、といった風な表情をする二人は、それぞれ武器を構えるけど……ダメだ、無理だ。今の二人じゃ……いや、違う、今のスクアーロには敵わない。
このままじゃやられるという焦りが、オレの口を動かした。
「待ってスクアーロ!!わかってる、わかってるよ!あいつは嘘つくような奴じゃないし、悪いことだってできるような奴じゃないってことくらい!
けどっ、あいつだって悪いんだ!何かを恐れてるから、オレに本当のことを言ってくれない……だから、信じたい気持ちはあっても、信じ切れないんだよ!!」
「──……、」
「ツナ、何言ってんだ?」
「10代目……」
眉間にしわを寄せて動きをピタリと止めるスクアーロに、怪訝な顔して見つめてくる山本と獄寺くん。
この場でこんなこと言ったって、意味ない。岸本の前でちゃんと言わなきゃ進まないってことくらいわかってるけど、言いたかった。それに、なんだかスッキリした。今まで喉に突っかかっていた言葉達が一気に出たからかもしれない。
そして、オレは気づいた。
自分が考えている以上に、岸本のことを、信じたいという気持ちが強いことに。
叫んだだけなのに、びっくりするくらい息が上がっているオレのもとに、山本と獄寺くんをチラと一瞥してからスクアーロが近づいて来て、そっと耳打ちしてきた。
「あいつは正体を隠してるはずだぞぉ」
「……やっぱり、ボンゴレに関係あるんだ」
「(超直感か?)」
「いや、直感じゃなくて、スクアーロがやけに岸本の悪口聞いて怒るなと思ったし……前からリボーンやディーノさんと仲良いのも気になってたから」
「読むな!……チッ、だったらちゃんと優奈を守りやがれ」
「できればしたい、けど」
「けどじゃねぇ!絶対にだ、わかったな!!」
最後に一喝してから、任務があるとかで去って行った。その姿を見送ってから視線を戻せば、山本と獄寺くんの何とも形容し難い表情……オレはただ、乾いた笑みを零すことしかできなかった。
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