君キン | ナノ


「ごめんね、こんな場所で……」

「へっ!?いやいや、それにしても面白い場所に住んでるんだねー、あはは」


なんでついて来たんだ、あたし。

悪いおじさんにはついてっちゃダメだからねって……さっき読んだベルの手紙に書いてあったのに即刻無視だ。今は女の子だけど、でももしもの時とかあったら、こんなに危ないことってないよね!


暗がりでいまいちどんな子なのかわからないけど、あの髪型、どこかで見たことあるような気がするんだ。




キィ、

重たい扉を女の子が開けた。そして迫って来る二つの影に、あたしは目を見開く。


「遅いびょん!腹減った!!」

「待ちくたびれた。」

「ごめん、犬、千種……」


うわあああ、待って待って、今まであたしはクロームちゃんにホイホイとついて来たってわけ!?それに犬と千種って……まさかここ、黒曜センター!?



「どうしたの?」


信じられない現実に瞠目させていると、女の子……もといクローム髑髏ちゃんは、小首を傾げながら話しかけてきた。そうだよ、よく見てみればこの髪型ナッポーじゃん!


「ん?誰かいるびょん」

「何連れて来てんの、めんどいな」


今さっきまでちょっと実感なかったけど、うわうわ本物だ!こんなタイミングで黒曜のメンバーと接触するだなんて思ってもいなかった。なんかテンション上がる。


「は、初めまして。えっと、雰囲気に任せてついて来ちゃいました岸本優奈です」

「んなとこ任せるなびょん!」

「ですよね……」


「岸本優奈って、聞いたことある」


え、どんな理由で?と問う前に、並盛中でのイジメの首謀者だって、と面倒くさそうに呟いた。まさか隣町にまで知れ渡っているだなんて驚いた。


「マジれすか柿ピー!?」

「え、あの、そうだったの……?」


「えっと、それ逆だよ。イジメられてる方が、あたし」


それを証明するため、あたしは傷を見せるのが一番手っ取り早い方法だと思いセーラー服を捲ってアピール。そうすれば、犬は聞き取れない言葉を喋りながら咄嗟に離れて行ってしまった。


「犬、ウブだから」

「そう、犬は……ウブなの」

「へえ、ウブなんだ」


「っ!ウブウブうるせえびょん!!」


どこからともなく犬の叫び声が部屋全体に響いた。なるほど、これは獄寺よりも上を行くウブさだなと思っていると、千種がクロームちゃんに「なんで連れて来たの」と呆れた口調で尋ねていた。


「ひとりで寂しそう、だったから……それに、人が多い方が夕食は楽しいと、思って」

「今から夕食なの?」

「そう。これと、これを食べる」


「え。」


クロームちゃんが指差す方向を辿って見れば、机の上には数少ないお菓子の箱が散乱していた。見間違いだよね、そんな、夕食がお菓子だなんて……目を擦ってもその現実は変わらない。


「そこの机の上に乗ってるのが晩御飯。作れる奴いないから、めんどいし」

「(結局はそれなんだね!)でも、これじゃ栄養偏るよ、きみ達成長期でしょうに」

「きみもじゃないの」

「えっ、あ、あはは、そうだった」


そうだそうだ、成長期真っ盛りな14歳だったね。しかし、黒曜がここまで貧相なご飯を食べているとは思わなかった……ボンゴレ霧の守護者である彼女がいるのに、彼らは何も支援してないの?


「よし!じゃあ、あたしが作る」

「ほんとう?」


「もちろん!……と、言いたいところだけどスーパーに寄ってないし食料ないんだよね」

「だと思った」


うーん、なんだろう、千種の物言いにいちいちカチーンと来るんだけど。わざと相手を怒らせるような態度を取ってるの!?


「そういえば、ここは料理できる場所あるのかな」

「ないと思う」

「あとさ、お風呂入ってる?なんか臭うんだけど……ここが臭いだけ?」

「「それは犬が、」」



「うるへー!!」

「……あははっ、じゃあ、うちに来る?」








「どうぞ、上がって!」


黒曜メンバーウェルカム!
あの後、あたしが誘えばクロームちゃんはちょっと遠慮気味だったけど、頷いてくれて。そんな彼女が行くのに犬と千種が来ないわけもなく。

ふふ、なんだかんだ言ってクロームちゃんが心配な二人なんだよね。うんうん、穏やかでいいね。


「ひゃー!ここって本当におまえの家びょん!?……ゲ、シャンデリア」

「最上階一人占めって金持ちにしかできない特権だね。掃除がめんどそうだけど」

「優奈、すごい人なんだ……」


「いやそんなことないよ!まあ確かに全部屋使ってもないのに埃だけは溜まっていくから掃除は面倒だけど」


てか、静かに座っててよ犬!おすわり!
待てよ、それよりもきみは何日風呂に入っていない!色んな臭い放出しててよくわからないが吐き気がする!


「あたし料理作ってるから、犬はお風呂入ってね」

「はあ!?風呂なんてめんどー」

「だから臭いんだよ。」

「直球で言いやがったな柿ピーめ!!」

「めんどーとか言うのは千種だけで充分だから、犬はさっさとお風呂に入っていい匂いにしてきて」



ゲ、命令かよー。なんてぼやきつつも重たい足取りでお風呂場へ向かっていく。リビングを出てすぐ、と言っておけば、あとは奴の野生の勘でわかってくれるだろう。あ、シャンプーとかわかるかな……まあいいか。


さて、作ろうかな。
とりあえず、犬のせいで肉料理なのは決定だが。うーん、いつもお菓子ばかりなら、スタミナ丼にでもしようかな。簡単にできるし!



「あの、何作るの……?」

「スタミナ丼だよ。みんなの身体にはピッタリでしょ」


「本当?……嬉しい」

「(かわいい!!)」


あたしより背の低いクロームちゃんは、無意識のうちに上目遣いをしているわけで、なんかもう色々可愛くてこのまま料理作るの投げ出してハグしちゃいたい!

そんなことを思っていたのがバレたのかよくわからないが、視界の隅っこで千種が冷めた目でこちらを見ていたのを発見して、落ち着いた。



ジュゥウウウウ

部屋中にお肉の焼いた美味しそうな匂いが漂い始めると、隣にいるクロームちゃん、テレビを見ている千種からもそれはもう大きな大きなお腹の鳴る音が聞こえた。そのことに、クスッと笑みを零していれば、リビングの扉がバンッ!と開かれて。


「いい匂いがするびょん!!」

「犬!」

「うふふ、犬もいい香りしてるよー?」


「んなっ」


お風呂から上がって来た犬は、この匂いに誘われて飛び出したんだろうか。ズボンは穿いているけど上半身は裸だし髪の毛も濡れたまま……床に目を落とせば、あり得ないくらいびしょびしょだった。


「犬、濡れたままじゃ風邪ひく」

「うるへー!」

「こら、犬!なにその言い方、せっかくクロームちゃんが心配して言ってくれてるのに酷いじゃん」

「そんなブスに心配されたって嬉しくねーびょん」


「ブスだと?クロームちゃんが、ブス!?
んなわけあるかこの野良犬!!今すぐ訂正しなさい、じゃないと晩御飯はお預けだからね!!」

「ゲッ」


美味しそうな肉料理を目の前にしているのに食べられないだなんて、今の彼にとっては笑えない話だし、まさに生き地獄だ。ギュルギュル鳴るお腹は正直だ……渋々だったけど、犬はクロームちゃんに「ブスよりはマシだからな」と謝った、と言っていいのだろうか。まあ、彼女がありがとうって言ったんだから良しとしよう。


「できた!よし、食べましょー!」


テーブルにボリューム満点のスタミナ丼を置くと、今までどんだけお菓子で過ごしていたのかわかってしまうほど、彼らの目はキラキラと輝いていた。ほんとは揃っていただきますをしたかったところだけど、焦らすのも可哀相だしバラバラと呟きご飯を口に運ぶのを見守った。



「優奈、これ、美味しい」

「ほんと!?」

「今まで食べてた物が物だし、余計に」

「へえ、そう。あのね、千種ってそれわざと!?もっと言い方あるよね!?」

「柿ピー、表情には出さねーけど絶対感動してるに決まってるびょん」

「うるさいよ犬」

「なら、そう言ってくれる犬は美味しいって思ってくれてるんだよね!」


「肉でできてる料理にマズイもんがあるわけねーじゃん」

「……そっか。」


褒めてくれているのか何なのか。あまり嬉しい評価を二人からは頂けなかったことに悔しく思いつつ、あたしも箸を手にとってご飯を口に運ぶ。なかなか美味しくできてると思うんだけどなぁと自画自賛していると、クロームちゃんが口を開いた。


「虐められてるって、ほんとう?」


「あー、うん、まあね。並中には変な勘違い女がいてね。その人が首謀者なんだけど、あたしが彼らと仲良くなってたのが気に食わなかったみたいで、標的になったの」

「彼ら?」

「(これ言っていいのかなぁ)えっとね、クロームちゃんのボス達……怒らないでほしいんだけど、この傷はボス達につけられたもの」

「え……ボスが!?」


沢田がそんなことするはずないと思っているんだろう、クロームちゃんが動揺の色を隠せていない。それに犬や千種も、沢田がイジメなんてできる奴なのかと意外そうな顔をしている。


「騙されてる彼らも悪いと思うけど、そうなるように演技をしている女が一番悪くて……そしてそいつは、クロームちゃんにも関係してる人」

「私にも?」

「うん。会ってないかもしれない、でも、彼女は10代目ボンゴレファミリーの一員として迎え入れられてるみたいだから」



「それより、きみ何者?」

「え」


一般人じゃないみたいだけど、と付け加えながら千種は言う。あれ、あれ……うっわ、何言ってるのあたし!普通にボスだとかボンゴレファミリーだとかぼろぼろ口に出しちゃって……!


「明らかに普通の奴じゃねーびょん」

「……じゃあ、きみ達には話す。」


あそこまで言っといて知らないなんて言い訳貫き通せるわけがない。あたしがボンゴレと関わりのある人間だってこと、任務を遂行するために日本に来たということを淡々と語った。トリップして来た話は信じられないだろうし、そこは隠したけれど。



「それで、3人には迷惑かけるわけにはいかないから、任務内容だけは言わないけど……でもこれだけは覚えておいて」

「うん?」

「クロームちゃん達は、絶対にそのままでいてね」


「それだけ……?」


もっと重たい言葉を待っていたんだろう。身構えていた彼女には拍子抜けかもしれないけど、そんなに多くは望まないよ、あたしは。


「そう、それだけ!あと、このことはボス達には内緒にしてね」


まあ、彼らに会うことって滅多にないだろうし、何よりそんなに打ち解けているわけじゃないみたいだからそこら辺は心配していない。

それから夕飯を食べ終えたあたし達は、軽く会話をして楽しんだ。
黒曜センターに帰ると言う3人だったが、もう夜も遅い、今日はここに泊まって行きなよと促せば、戸惑いはあったみたいだったけど泊まることに。



「じゃあ、犬と千種はこの部屋使ってね」

「柿ピーと相部屋!?」

「それ、そっくりそのまま返すよ」

「文句言わないの!たくさん使われたら掃除する場所増えちゃうでしょ!」


ブーブー言う犬を無理やり部屋に押し込んでから、千種を入れる。部屋広いんだから布団を離して寝れば済む問題だ。ただひとつ不安なのが、部屋をめちゃくちゃにされないか、だけど……大丈夫かな?


「クロームちゃん、一緒に寝る?」

「え、いいの……」

「うん。あたしのベッド、二人でも充分寝れる大きさだから、いっつも寂しかったんだよね」


こうしてあたしは、クロームちゃんと一緒に、女の子らしい会話をしながら。そして気づけば二人とも深い眠りについていた。


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