テレビから流れる天気予報に、朝からがっくりしたのは私だけではないはずだ。どうしてこうも毎年曇りとか雨とか雨とか雨とか……とにかく、清々しいまでの晴れ予報が少ないのが七夕だ。
「ううんんん」
「先輩うっさいっすわ」
そうして私の体調も絶不調である。後輩である財前光の言葉を軽く受け流しつつ机に突っ伏す。汗臭い部室に二人きり。別にやましい関係ではなく、「週に1回は掃除せなあかん!」という顧問からのお達しにより担当制になりまして。
「それより掃除する気あるんすか?さっきから机に張り付いてますやん」
「だって頭痛い」
「言い訳やろ」
「そういう光だって何もしてない」
「面倒っすから」
ダメだこれ、進まないやつだ。明日部活始まったらみんなにグチグチ言われるに違いない。
ツンとした態度で窓の外に視線を向ける光を睨みつつ、重たい身体を起き上がらせて窓へと向かう。とりあえず空気を入れ換えよう。鍵を開けてガラッとスライドさせれば、開けたのを後悔するほどの嫌な空気が私を襲った。
「うっ」
「なまえ先輩、アホっすか」
「換気したかった」
「この時期じゃ窓開けたところで意味ないっすよ。クッ‥今の笑えた」
そう言いながら椅子から立ち上がりこちらに歩を進め、窓に手を伸ばして静かに閉める光。ほんと、開けた意味。自分のやらかした行動に落ち込んでいれば、隣に立つ光は驚くほど静かに窓の外を見つめていて。何か見えるのか、不思議に思いつつ彼に倣うように外に視線を向けるけれど特別変わった風景は映らず。
「雨、降りそうやな」
「えっああ……うん。天気見てたの?」
「今日、七夕やん」
なんや行事ごと忘れる性質ですか?さすが先輩。と、皮肉たっぷりに呟く光に、そんなことないと脇腹を小突く。純粋にびっくりしたのだ、あの財前光がそういった行事に関心を持っているとは思わなかったから。
「でも天気悪いと、ちょっとどうでもよくなっちゃうかな」
「そっすか?」
「だって星ひとつも見れないのに―」
何を楽しみにするのか。そんな言葉を発する前に、彼が「うわないっすわー」とでも言っているようなやけに引いた表情をこちらに寄越すから中断。文句でもあるのかとギンと睨み返せば、へらりと笑いながら肩を竦ませて。
「結局雲の上で逢えてますやん、」
「は?」
「織姫と彦星」
「え、ごめん、光ってそんな」
乙女チックな発言しちゃうの!?と笑ってしまいそうになった、のに。隣に立たれているのはもちろんわかっていたけれど、いつの間にこんなに至近距離になっていたのか。それとも、そうやって私をジッと見つめてくるからそう感じるのか。想定外な距離に気まずくなり足を一歩引いたところで、腕を掴まれて。
「!?」
「逃げるんすか?」
「や、だって……」
「さっきの続き。で、雲の上で、誰にも見られないところで二人、ひっそりと逢う。ほんま何してんのやろう思いません?」
「思わないよ」
「一年に一度の再会。そりゃあもう激しく」
「ちょっと待って!?」
乙女チックな発言と考えたあの瞬間に戻りたい。ダメだこいつ危ない!!
危険人物であることくらい学校生活を送っていれば知っていたけれど、まさか自分が標的にさせられるとは思ってもいなかった!ぐぐぐ、と腕に力を入れてなんとか離れられないものかと抵抗してみるも、男女の差ってやつでピクリとも動かない。
そんな私をどう思っているのかわからないが黙って見ているだけの光。ああもう、頭痛が増す。
「冗談すわ。今何考えてました?先輩やーらしー」
「は!?」
「なまえ先輩相手にどうこうするわけないやないっすか」
「え、あ、ん?それってどういう」
「織姫と彦星みたいに一年に一度の関係とも、そこらの女との関係とも違う。なまえ先輩と、俺だけの関係ってやつ、目指してるんで」
ぽつり、ぽつり
窓の外から聞こえるその音で、雨が降って来たのだと認識するのがやっと。
ああ、頭が痛い。