短編 | ナノ


『まもなく、電車が参ります。白線の内側まで――』


「なまえちゃん、この電車乗るんやっけ?」

「……」


誰かこの状況を説明してほしい。
なぜ電車を待っている私の隣に、同じクラスの忍足侑士がいるのか!同じクラスといっても本当につい最近偶然同じになっただけでそれまでは関わりなんて一切なかったのに!(それゆえに軽々しく名前を呼ばれるのも納得いかない)

あれ、無視?なんて貼り付けたような笑顔を浮かべながら声をかけてくる忍足くん。あまり視界に入れないように試みるも、声は耳から入ってくるわけで、嫌でも彼の存在は認識せざるを得ない状況だった。


「同じクラスになったんやから、仲良くしてや、なまえちゃん」

「っだから、」


うるさい気安く名前を呼ぶな!

そうはっきりと声を発した瞬間電車がホームに入ってきて、やばい口が滑ったと焦りながら忍足くんの顔を見れば「だから、……なに?」と言ってきたのでホッとした。電車よありがとう。

なんでもないですとツンとした態度で顔をそらし、プシュゥウと音を鳴らして開いたドアを確認して車内に足を進めた。


「(ラッキー、今日は帰宅時間早いから座れる!)」


なんて、嬉々として座った数秒前を返してほしかった。




「座れるなんてラッキーやったなぁ。なあ、なまえちゃん」

「……!!」

「ん、どないした?」


どないした?じゃないよ忍足くん!!
なんでさも隣に座るのが当然、みたいに座ってるかな!?ちょっとよくわからないんだけどイライラしてきた。


「あの、私何かしたかな?」

「おっ、ようやく反応返してくれたなあ自分」

「質問に答えてください」

「そうピリピリせんでもええやろ。だから、仲良くしたいなあ思って」

「それなら学校内で行ってください。まるでこれじゃあストーカー」

「えーそんなつもりないで!」

「(嘘つけ学校出た時から後ろから追って来てたでしょうが)」


仲良くなりたいからとここまでするかな普通。ふう、と静かに息を吐きながらチラと隣にいる彼を見れば、携帯を弄りだしていた。
……まあ、話しかけられるよりはそっちの方がこちらとしても楽ではあるからいいのだけど、仲良くしたいなとか言ってたくせにその行動は如何なものか。

思わず眉間にしわが寄ったけど、気にするなと自分に言い聞かせて、顔を俯かせた。


ガタンゴトンと揺れるリズムと適温のせいか、不意に眠気が襲ってきた。そういえば今日は体育で疲れたなあ、なんて思いながら目を瞑れば、そこから眠りにつくまでは数秒だった。










『まもなく、○×駅〜、○×駅〜』


ふと、目が開いたときに耳に飛び込んできた駅名に、ハッとした。


「えっ!?」

「あ、おはようさん、なまえちゃん」

「え!?」

「ぐっすり眠ってたんで起こすのも忍びなくてなあ。降りる駅、どこ?行き過ぎてたら堪忍な」

「いや、次……じゃなくって」


そりゃあ降り過ごしてたらなんで起こしてくれなかったんだと思うところだけど、今の問題はそこではない。いつも電車で眠っちゃうと決まって首が痛くなるのに、全然痛くないのはおかしい。


「ごめんなさい」

「なんで謝るん?」

「なんとなく」

「いやいや、役得やったで」


「……どういう、」


寝起きでまだ覚醒しきっていないのか、忍足くんの言っていることがわからなかった。
が、にっこり笑顔で自分の右肩をポンポンと叩く彼の行動を見れば、それが何を意味していたのかはすぐに理解できた。


「あ、あ、あ……!!」

「周りからも恋人同士かしらね〜なんていう目で見られとったで俺たち。肩のレンタルくらいいつでもしたるから、また一緒帰ろうな」


そうだ、これはきっと、悪夢だ。