「オレ、幽霊さんの姿は見えないけど、声とかが良く聞こえるんだ」


ついこの間まで綺麗な色を見せていた桜が散り、薄手の服でも寒さを感じなくなった。
暑さを誤魔化す為にと怖い話で盛り上がり始めた中で、君の呟いた何気無い一言が一瞬その場を静まり返らせた。


「…サイケ君、それって…霊感があるってことですか?」
「ん―…そうなのかなぁ。良くわかんないけど、毎日のように助けてって言ってきたり遊ぼうって誘ってきたり…オレ、怖いの苦手だから良く泣いちゃうんだけどね」


恥ずかしそうに笑いながら言う君の言葉につられて周りも笑い始めるけど、皆完璧に口許がひきつってしまっている。


それは君の話が信じられない訳じゃなくて、むしろ嘘が苦手な君が言った言葉だからこその反応だ。


証拠に、黙って話を聞いていた日々也なんか顔は平静を装っているけど手が小さく震えている。


「あ、だけどね…最近いいことがあったの!」


多少重い空気が漂い始めたのに気付いてか、君は明るい方向に話を転換させた。


俺はただただ黙って笑顔で相槌を打つ。
何々、と先を促す皆の顔を見つめ上機嫌に君は言った。


「最近はね、その声があんまり聞こえなくなったの!」
「おぉ……良かったじゃん」
「うん!まぁ、まだたまに聞こえはするんだけどねー」


嬉しそうに話す君の表情を見ているだけで、俺まで嬉しくなる。


良かった。
周りに変な奴が寄ってきたときに追い払うようにして。


自分自身が君に取り憑いている身…所謂憑き物であるということを棚に上げ、俺は頬を緩めた。


いや…棚に上げ、気にしないことが出来たのならどんなに良かっただろうか。


自分が「不幸を呼ぶ忌み者」であることに目をつぶる事が出来たのなら、俺はどれだけ幸せだったのだろうか。


実際、俺に憑かれた君が不幸になったのかどうかを確かめる術はないけど、忌み者であるという事実を変えることはできない。


その真実がまた俺を苦しめているのだ。



笑顔が眩しい君…サイケを見かけたその時から、俺は君に恋に落ちた。
自分でも、馬鹿馬鹿しいと思っている。


人に嫌われる存在でありながら人を愛してしまうなんて。


だけど、だけど…



『お前を護っていたいんだ、サイケ』


その気持ちだけは誰にも否定させる気などない。


憑き物の俺でも、傍にいることをどうか…許してください。
この恋が叶わなくとも、君を…君を護っていたい、だから…
届くはずのない想いを胸にしまい込み、今日も俺はサイケの後をただただ付いて回る。



時折、サイケに手を出そうとする妖達を追い払い、サイケが笑うのに合わせて小さく歌を歌う。


声だけは聞こえてしまう君を怯えさせないように、本当に小さな声で。


サイケが泣いてしまいそうな時は、少しだけ大きな声で綺麗なメロディーを口ずさむ。


はっと顔を上げる君の姿が確認できたらそこで歌うのを止める。


怖がらせてしまっては意味がないから。


君の傍にいれる。
それだけで俺は…本当に幸せだ。