開け放たれた窓から吹き抜けてくる春風の中、キッチンから漂ってくる香ばしい香りに目を細めつつテレビのチャンネルを弄くり回し静かに欠伸を漏らす。 本日、俺 折原臨也の誕生日を祝うためにと家を訪ねてきたシズちゃんにキッチンを貸してからそろそろ一時間。 先程ちらりと見えた材料や、オーブンの低い音が聞こえてくる事から、どうやらシズちゃんはケーキを焼いているようだ。 可愛らしいフリルの付いたエプロンを身に纏う相手の姿を脳内に思い浮かべながら、そろそろスポンジが焼き上がる頃だろうか等と時間を携帯で確認していた時… 事件は起こった。 バフン!! 本来キッチンから聞こえるべきではない物凄い爆発音に、半分程閉じかけていた瞳を見開き慌てて立ち上がる。 「ちょっと…シズちゃん、大丈夫!?」 モクモクと煙を上げるキッチンに飛び込めば、ぺたりと地面に座り込んだ愛しい恋人の姿(エプロンは残念ながらフリル付きじゃなかった)が目に入り、取りあえず怪我が無さそうなのが確認できて安堵の吐息を漏らした。 しかし、ケーキを焼いていたはずなのに何を間違ってか爆発させてしまった張本人は、目にいっぱいの涙を溜めながら俺を見上げた。 っ…その体制でその表情は色々クるものが…ってそうじゃなくて。 「臨也すまねぇ…俺、何時もなら上手く焼けるのにっ…今日は、爆発させちまって…」 「いいよ。それより、シズちゃんに怪我がなくて安心したよほんと」 自分もしゃがみこみ相手を腕の中に納めてみるものの、シズちゃんは更に泣きそうな声で謝罪を繰り返した。 「俺、いつも臨也に色々してもらってんのに、っ…お礼すら出来てなくて…だからっ、ケーキ焼いて喜んでもらおうと思ったのに…っ」 ついに耐えきれなくなったのか、ぼろぼろと大粒の涙を溢れさせ俺の胸に顔を押し付けてくる。 慰めるようにふわふわの癖っ毛を撫でてやりながら俺は小さく笑みを溢した。 これだけ愛する人が俺のことを愛してくれてるというのに、これ以上プレゼントを貰う必要なんて何処にあるだろうか。 シズちゃんが隣に居てくれさえすれば俺は幸せだ。 「ごめんな、いざ…」 「はい、ストップ。もう謝るのも泣くのも禁止」 再び謝罪の言葉を口にしようとしたシズちゃんの唇に人差し指を押し当てて制止する。 「こんな泣いて顔も真っ赤にして…何?誘ってるわけ?それなら遠慮なく食べちゃうよ俺」 「なっ…!!」 口をパクパクと開閉させながら先程より赤に染まった相手の顔に満足しつつ更に言葉を続ける。 「食べられるのが嫌ならさ、一つだけ俺のお願い聞いてよ。…ケーキの代わりのプレゼント、それでいいよ」 「お願い…?」 「そ。お願い」 シズちゃんの耳元に口を寄せて要望を口にすれば、面白いほどに赤く染まったのが見え可笑しくて笑ってしまった。 「…っ、その言葉言えばいいのか?」 「うん。シズちゃんが言ってくれたら俺すっごく嬉しいよ」 俺の希望した言葉が普段口にしないものであるせいか、シズちゃんは迷うように視線をさ迷わせつつ小さく唸り声を上げている。 それをからかうように笑ってやればついに意を決したのか愛しい恋人はその口を開いた。 「…意地悪、だけど…大好きだ」 (意地悪は余計だよシズちゃん ) |