これの続き。 シズちゃんが俺の事を忘れて既に一ヶ月が過ぎようとしていた。 相変わらずシズちゃんは俺の事を欠片も思い出せずにいて、そんな彼にとっての俺は "ただの親切な男" でしかなかった。 それを実感する度にぴしりと心が悲鳴をあげるのを感じていた。 毎日毎日ただシズちゃんの世話をして、愛想笑いを浮かべて。 「もう耐えきれないよ…」 限界だった。 真夜中、シズちゃんが寝静まったのを確認しこっそりと部屋へ侵入する。静かに吐息を繰り返す薄いピンク色をした唇。この唇に触れてもらえなくなってもう一ヶ月も経ってしまった。 起こしてしまわぬようにと気を配りながらそっと指先でなぞってみる。柔らかくて暖かいそれを指先で味わうだけでは物足りず、自分のそれと重ね合わせてしまえばもう後には引けぬ程身体が熱くなるのを感じた。 「っん…、ふ…ぁ」 声を噛み殺しつつ自らの後孔へと唾液を絡ませた指を出し入れさせる。ぐちぐちと聞こえる卑猥な音にすら熱を持った身体は呆気なく更なる興奮を募らせていく。 二本の指で内部を広げるようにと慣らしていけば、その内そんな緩い刺激では物足りなくなってゆくのを感じた。 もっと欲しい、いつもみたいに激しく突き上げて欲しい。シズちゃんのもので。 「シズちゃん…」 器用に口だけでチャックを下ろし下着も一気に引きずり下ろせば、幾度となく俺の内部を抉り上げてきたシズちゃんのペニスが目に入った。 ごくりと喉を鳴らし、そっと口に含めば夢の中にいる最中とはいえ健全な男であるシズちゃんのそれは久々感じる刺激に歓喜するようにすぐに硬味を帯び始めた。グロテスクなそれを舌先で刺激し続け、半立ちになった所で口内から取り出してやった。 身体はこんなにも俺の事を求めてくれるのに、シズちゃんの心から俺は何処かに追いやられちゃったんだよね。 吐息には若干乱れが見え始めているものの未だ目を覚まさない相手を一瞥し、そろりと相手の上に跨がる。半立ちのペニスに手を添え、いざ自分の後孔に埋め込もうとした所で金髪が揺れ動くのが目に入った。 「…折、原…?」 「ああ…起きちゃった?」 目を覚ましたばかりでまだボンヤリとした視線を向けていたシズちゃんも、俺が再び行為を再開したところで漸く状況を理解したらしく目を見開いていった。 「おい、折原!何して……」 「臨也って呼んでよ!」 行為を止めさせようと伸ばされた腕を払い除け、泣きそうなのを堪えながら怒鳴り返してやれば驚いたらしく、シズちゃんは困惑した表情のままで黙り込んだ。 「…なんで、思い出してくれないのさ」 「折…?」 「一生大切にするって言ったじゃない!なのにっ…なんで忘れちゃったの!?命助かっても…忘れられたままじゃ、意味ないじゃん!早くっ…早く思い出せよ馬鹿!」 今まで必死に押さえ込んでいた気持ちが爆発しそれに押され涙が溢れだし次々と頬を伝う。 雫は俺の頬から流れ落ちた後も下で目を見開いているシズちゃんに向かって落下を続けた。 ぴちゃり、小さな音と共にシズちゃんの頬に雫が弾け… 奇跡が起きた。 「…臨也?」 俺の上げる嗚咽の中、確かにその低音に名前を呼ばれたのが聞こえそれが空耳でないのを確かめるべく口を開いた所で、強い力に引かれそのまま相手の腕の中に倒れ込んだ。 「臨也、臨也…!ごめん、俺っ…手前のことっ…!」 「シズっ…ちゃ、シズちゃんっ…!」 謝罪を繰り返す悲痛な声と震える腕の確かな温もりに新たな涙が溢れる。 あぁ、やっと帰ってきてくれた。この暖かさは紛れもない彼のものだ。 俺の事を知らない静雄君のものではなく、大切にすると約束してくれた…大好きなシズちゃんのものだ。 「シズちゃんっ…お帰りなさい…っ」 泣きじゃくる俺の耳元で聞こえた言葉に心が暖まるのを感じ、涙まみれの顔をシズちゃんの服へと押し付けて小さく笑いをこぼした。 ただいま、臨也 (もう二度と俺を離さないで) |