俺は化け物だ。 幽に向かって冷蔵庫を投げ付けようとしたあの日から、俺は人間では無くなってしまった。 いや…もしかしたら、元々人間ではなかったのかもしれない。 それでもあの日まで、俺はそれなりに人間らしく生きていたんじゃないかと思う。 人から愛してもらって、俺もそれに愛を返して。 いつからだろうが、人に愛してもらえなくなったのは。 いつからだろうか、人を愛するのが怖くなったのは…… 「シズちゃん、聞いてる?」 若干不機嫌さを含んだ声にはっとし、伏せ目がちになっていた視線を上げるとそこにはやはり不機嫌そうに頬杖をつく臨也の姿があった。 「シズちゃんが数学教えてくれって言うから教えに来たのに…何ぼんやりしてんのさ」 「…悪ぃ」 明後日に迫った数学の追試テスト。 クラストップの点数を取りゆうゆうと追試を逃れた臨也に勉強を教えてもらうためにと家に呼んだのはいいが、どうやら臨也の口から流れ出してくる難しい公式を聞く内に、俺は考え事に没頭してしまっていたらしい。 「も―…。折角恋人の俺がつきっきりで教えてあげてるんだから、ちゃんと聞きなよ?」 「…あぁ」 臨也はやけに素直に頷いた俺の様子に少し不思議そうな表情を浮かべるもすぐに数式の説明を始めた。 「…ってな感じで証明できるわけ。わかった?」 「…なぁ臨也」 「あれ、俺の質問は無視?」 突っ込みを入れる臨也の言葉を無視して再び口を開く。 「手前は人間が好きなんだろ?」 「え、何今更。いつも言ってるじゃない…俺は人間を愛してるよ、愛しくてたまらない。あ、でもシズちゃんのことはそれと比べ物にならないくらい愛してる」 「…何でだよ」 「…は?だから、俺は人間の悩んだり喜んだりする姿が…」 「そこじゃねぇ。そうじゃなくて…」 ……何で俺なんだよ。 臨也に告白されたときからずっと不思議で仕方なかった。喧嘩を繰り返していた頃は毎日のように化物だと罵られたのに。 どうして人間を愛してやまない筈の臨也が化物の俺なんかを愛してくれるのか、と。 「俺は、人間じゃない…」 今までずっと不安であった本音が口から溢れ出していった。 「…シズちゃん」 「…すまねぇ、変な事聞いた。続き、教え…」 「シズちゃん」 いつになく真剣な声に視線を向ければ、そのまま相手のか細さからは想像も出来ぬほどの強い力で腕の中へと納められた。 「…俺は人間が好きだよ。人間を愛してる…だけど、俺の愛する対象に化物は含まれていない」 つきり、とした冷たい痛みを胸に感じ俯く。 わかってたことなのに…あぁ、くそ泣いてしまいそうだ。 「でもねシズちゃん。なんで君が俺の最愛の人に選ばれたのかわかる?」 その質問に答えることが出来ずにいる俺を抱き締めながら臨也は言葉を続けた。 「簡単な事だよ。君が…化物なんかじゃなかったからさ。強い化物の仮面を被っていただけの、ただの…ただの泣き虫で寂しがり屋な人間だったからさ」 暖かな雫が頬を伝う。 俺が涙で濡れた瞳で見上げた先には、俺の、俺の大切な人が暖かな微笑みを浮かべていた。 きっと獣になれない (もう一人ぼっちの獣になんかさせない。俺がずっと側にいるから)―――――――― セブンティーン様に提出させていただきました! あまり17歳という青春具合を出せてなくて申し訳ないです>< とにかく二人とも早く幸せになりやがれ!← 素敵企画への参加許可本当にありがとうございました! |