シズちゃんが車にはねられた。 普通の人間よりも頑丈に作られたその身体を、いとも簡単に宙へと飛ばすことのできるような大型のトラックに。 それも… 後ろから迫ってきていたトラックに気付くのが遅れた俺を… 俺なんかを庇ったせいで。 「シズちゃん…!」 慌てて運び屋に連絡を入れ新羅の元へ運んでもらい、急いで手当てをしてもらって。 幸いにも元々身体が頑丈であったシズちゃんは命に別状はなかった。 身体は所々骨が折れたり出血したりもしていたが、それは新羅の手当てのおかげで処置を済ませることも出来た。 しかし。 数時間後、ようやく目を覚ましたシズちゃんに駆け寄り、良かったと安堵の笑みを浮かべた俺に投げ掛けられた言葉は、酷く残酷なものであった。 「…すまねぇ、手前誰だ?」 思わず取り乱してしまった俺を運び屋に頼み、冷静に新羅がシズちゃんと話しをしてくれたおかげで分かったのは、俺にとっては更に酷な事実であった。 「いいかい臨也、落ち着いて聞くんだよ?」 運び屋が宥めてくれたおかげで大分落ち着きを取り戻していた俺。 新羅はせっかく気を落ち着かせる事が出来た俺をまた混乱させてしまうような事を告げるのが辛いらしく悲痛な顔を浮かべた。 「静雄は…頭を打ったことによって記憶障害を起こしているみたいなんだ。所謂…記憶喪失ってやつだね」 「…じゃあ、今のシズちゃんには記憶義がないってこと?」 「いや…」 言葉をつまらせり新羅に問い詰めかけ、そして聞かされた言葉に俺は何も言うことが出来なかった。 「臨也、静雄は君との記憶だけを綺麗に忘れてしまっているんだ」 あれから一週間。 シズちゃんの記憶は相変わらず戻らないままであった。 「折原、すまねぇ…包帯取り替えてもらってもいいか?」 「あ、うん…ちょっと待ってて」 俺の事を欠片も覚えていないシズちゃんは、俺の事を"折原"と呼んだ。 本人は俺の事を初対面の人間だと思い込んでいたために当然の呼び方であったらしい。 でも今までずっと "臨也" そう呼ばれていた俺にとってはシズちゃんが名前を呼んでくれない事が苦しくて仕方なかった。 苦しさをもう感じたくない。 でも俺はシズちゃんの記憶が戻るまで側にいてあげなきゃいけない。 どんなに忘れられた事実が辛くとも、俺が側にいて世話をしてあげなきゃ。 「折原…?」 「あ、ごめんごめん」 だけど、やはり仮にも恋人という立場の人間として、忘れられるのは本当に辛くて仕方の無いことだから。 「何?静雄君」 (逃げとは分かっていながらも俺は全く関わりのない人間のフリをせずにはいられなかった)―――――――― 続きます! 次は少し裏が入るかもです。 |