「…シズちゃんの馬鹿」 涙の溢れ出す目元を拭いながら俺は足を進め続けた。 気付くと思った。絶対に気付くと思ってた。自信があったのに。 再度溢れ出て来る涙を袖で拭いながらため息混じりの息を吐き出す。 俺はシズちゃんが好きだ。ずっとずっと前から。 だけど今更そんな思いを告げられるはずもなく、増しては直接チョコをあげる事なんて出来るはずもなかった。 じゃあどうしたらチョコを渡せるのか。 そうドタチンに相談して二人で考えたのが今回の作戦だった。 お互い素直になれない俺とシズちゃんだからこその作戦。 女子に成り済ましてチョコを作り、下駄箱に入れておく。でもこれだけじゃ鈍感なシズちゃんは俺って事に気付いてくれないだろうから、ラッピングやカードにいつも俺が身につけている香水をたらしておく。 嗅覚が化け物並に優れたシズちゃんならきっと。 「きっと気付いてくれると思ったのに…」 俺もドタチンも、シズちゃんが匂いで俺を探しているのを知っていたからこそ考えた作戦だったのに。それなのにシズちゃんは、本当に女子からのチョコだと思い込んで嬉しそうにして。 揚句の果てには俺に贈り主を… 「…馬鹿は俺の方だよね。最初から素直に言えば良かった…直接渡せば良かった。そしたらこんな…傷ついたりしなかったのに…」 後悔してももう遅いんだろうか。 止まらない涙を指先で拭っていると、急に後ろから温かい何かに包まれた。 「…本当馬鹿だな手前はよ」 「し、ずちゃん…?」 どうして、どうして。なんでシズちゃんが此処にいるの。 「まぁ気付けなかった俺も悪ぃけどな…」 そんなことをぶつくさ呟きながらシズちゃんは溜息を漏らす。 …ドタチンがまたお節介を焼いたのだろうか。 それで、どうしようもなく優しいシズちゃんは、同情して俺を探しに…? はは、なんて惨めなんだ俺。 「離してよ。同情なんてされても嬉しくない」 「は?」 「とにかく、離してよ!」 これ以上惨めな思いなんてごめんだ。 必死で腕から逃れようと身をよじってみるものの、シズちゃんは俺を抱きしめる腕を一向に緩めようとはしなかった。 「離してってば…!」 「うっせぇな、黙れ。黙って俺の話を聞け臨也」 「っ…」 こんな時だけ名前で呼びやがって。いつもはノミ蟲ノミ蟲ってしか呼んでくれないのに。 文句が口から出なかったのはシズちゃんがあまりにも真剣な顔付きをしていたからだった。 「…いいか、一度しか言わねぇ。だから…よく聞いておけよ」 何なんだよ今更。 ふて腐れたような顔でシズちゃんの方を向いた俺は、続けられたその言葉にまた新たな涙を溢れさせた。 「俺もずっと前から手前の事が好きだった」 (……シズちゃんてば本当に馬鹿だよ) |