今日も一日中喧嘩をし続けて。


疲れ果てた俺ら二人は取りあえず殺し合いという名の喧嘩を一時中断し、下駄箱で待っていた新羅や門田と合流し、いつものように四人で帰路につこうとしていた。


本日は、世間の男子がそわそわし女子達が緊張で頬を赤らめる特別なイベントの日―…所謂バレンタインデー。


周りの奴らの会話に耳を傾けてみればやはりチョコがどうのこうのといった会話をしていたし、現在進行系で隣を歩く新羅が惚気話を生き生きと展開させていた。


「でね、セルティったら照れちゃってさぁ。チョコを…」
「あーそうか。良かったな―…………あ?」


新羅の話を適当に聞き流し、靴に履き変える為にと下駄箱を開いたところで俺は手を止めた。


「静雄、どうしたの?」


手を止めたまま硬直していれ俺を不思議に思ったらしく、新羅は横からひょこりとその中を覗き込んだ。


そして少しずつ目を見開いていき、相当驚いたのかかなり大きな声を上げた。


「静雄の下駄箱の中にチョコが入ってる!」


新羅の大声に数人の生徒がこちらを振り返る。恥ずかしくなった俺は慌てて新羅の口を塞いだ。


「もがっ…!」
「るせぇよ、静かにしてろ」


「へぇ、シズちゃんにチョコ……随分と物好きな子もいたもんだねぇ」
「あ゙?」


新羅を押さえ付ける俺の横から、ノミ蟲も同じように中を覗き込んだ。そして俺宛の、可愛いラッピングの施されていそれを許可も無く勝手に取り出す。


「手前、何勝手に取ってんだよ!」
「あは、ごめんごめん」


腕の中で大人しくなった(何故か気絶しかけていた)新羅を解放し、俺はノミ蟲から箱を奪い返した。


やけにあっさりと返して来た事に疑問を覚えながらも、改めてその箱を観察してみた。



静雄さんへ★
ずっと前から貴方の事が好きでした♪
気付いてなかったと思うし、これからも気付かないだろうけど…どうしてもチョコだけは渡したかったので…ッ
よかったら食べてくださいね! 
でわでわ(><*)⌒★
 
 


やたらキラキラとラメの入ったペンで書かれたメッセージカードに目を通し、その丸っこい文字の読みにくさに自然と眉が寄せられる。


でも、そっか。俺の事、好きになってくれる女子もいたんだな。


そんな事実に悪い気は起こらず、自然と口元が緩むのがわかった。


気持ちには応えられなくとも、せめてお礼はしねぇとな…そう考え何やら考え事でもしているのか、やけに静かに黙っている臨也の方へと顔を向けた。
 

「この字、誰のか分かるか?」
「は……?」
「手前、人の事嗅ぎ回るの好きだろうが。お礼言いてぇから、どのクラスの女子か教えろよ」


俺の言葉を聞いていた臨也は、みるみるうちに何かにショックを受けたような顔になり、そしてくるりと背を向けたと同時に怒鳴るような声で俺に言葉を投げ付けた。


「知らないっ…!シズちゃんの馬鹿!」


怒鳴り声というより、泣くのを堪えているような悲痛な声に俺が戸惑っている間に、臨也はそのまま一人で走り去った。
 

 
「…何だよアイツ」
「…静雄、気付かなかったのか?」


わけわかんねぇ。そう思っていた俺の肩に門田の手が置かれる。


「お前、いつも臨也を追い掛けてる途中に見失った時、どうやって探し出してるんだ?」
「は?」


何故今ここでその話になるんだ。


本当に訳がわからなく首を傾げながらも俺は素直に答える事にする。


アイツの事はいつも臭いで探している、いつもやけに目立つ香水つけてやがるから………香水?


門田に言葉を返している最中、あることに気付き言葉を止めた。


……まさか。


「早く行け。まだそう遠くには行ってねぇだろ」


どこまでも世話好きな門田に言われ、俺は慌てて踵を返す。


そして靴もまともに履かぬままでその背中を追い掛けた。

 
 

チョコレートの本当の贈り主の背中を。