前に持っていた携帯を粉々にし、先日買い替えたばかりのそれを握りしめ、俺はソファーの上に正座という奇妙な体制で黙り込んでいた。 アイツからの告白を受け、俺が真っ赤になった顔でコクコクと頷いたのが調度一年前。 そう。今日は京平と俺が付き合いめでたく一年…所謂、一周年記念日というものだ。 毎月携帯に届く、『これからもよろしくな』というシンプルでアイツらしいメール。今日で十二通目になるそれを受け取るためにと、俺はこうして数十分前から、端から見ると痛い奴でしかない体制を保ち続けていた。 「…もう一年か」 お互い照れてしまい、もどかしい思いをしながらようやく手を繋ぐまで一ヶ月もかかってしまったり、キスにいたっては付き合い始めて三ヶ月もたってしまっていた。 名前で呼び合うようになったのもついこの前のことだし、かといって思春期真っ盛りの俺達がそういった行為に及んだのは遅かったわけでもなく――…っと。 「…何思い出してんだよ俺」 思わず頭に浮かんでしまったアイツとのその…まぁあれな情景を慌てて頭から振り払う。いやでもあの時、アイツも色々余裕なく…じゃねぇ! 再度頭を振り、俺は慌てて別のことを考え始めた。 マイペースに遠回りもしながらゆったりと歩んで来た俺ら。 しかし何だかんだ言っても、今思えばこの一年あっという間であった。 毎日学校で顔を合わせ照れてしまった。ノミ蟲には必死で隠していたのに、その努力も虚しくバレてしまい物凄くからかわれた。 テスト前は勉強を教えてもらったり、休日は二人で色んな所行ったり… 毎日が楽しくて、本当に時間が過ぎるのが速く、気付けば一年もたっていた。 もうすぐ卒業の俺達は、正直不安が無いわけではない。でも俺達なりのペースで、焦らずに歩むことができるならそれでいいと思っている。 ヴゥ、と手の中のバイブ音に気付き、慌てて携帯を開く。 勿論贈り主は京平。しかし、本文の内容がいつもとは違っていた。 メールを読んだ俺は慌ただしくソファーから立ち上がり、服を着替える。 つまずきそうになりながらも携帯をしっかりとにぎりしめたまま。 俺は大好きな顔を拝む為に思いきり玄関のドアを開け、アイツが好きだと言ってくれた笑顔を浮かべた。 恋は砂糖でできている。 (『静雄の家の前まで来てるから』) |