「うわ、ボロボロ…」 早速時計台へ向かい、臨也の言う通りボロボロであるそれの中を覗いてみた。 頂上まで続いているらしい螺旋階段を見上げ、自然と俺達の足は上を目指し昇り始めた。 時々足場ががらがらと音を立てて崩れ落ちていく。 危なっかしいなと舌打ちをすると同時に、先を歩いていた臨也が目の前に手を差し延べて来た。 落ちてもすぐに助けられるように、とでも言いたいらしい。 俺より体重軽いくせに、手前に支えられるわけねぇだろうか。 そう言い返してやろうと考えたものの、その優しさが余りにも暖かく、捻くれた言葉は口から出て来る機会を失ってしまった。 階段を一段一段確かめるように踏み越えていきながら、ふと前を歩く人物の背中を見つめる。きっと何人もの人がこうやって愛しい人物の背中を眺めながらここを昇っていったのだろう。 そう考えると不思議な感動に包まれた。 幸せだっただろう、共に昇って行ったカップル達は。俺が今幸せを感じているのと同じで。 何十年も残り続けているらしいこのジンクスは、所詮ただの言い伝えであり本当に叶うという保証はどこにもない。 「こんなの、ただの言い伝えでただの噂でしかないけどさ…」 一足先に頂上へと辿り着いた臨也がくるりとこちらへ振り向く。 手をぐぃと引かれ、自然と臨也の腕の中へと飛び込むような形になってしまう。 赤面する間もなく強く抱きしめられ、それが心地よく、危ないじゃねぇかと文句を言いかけた俺の口は何も発する事なく閉じる羽目となった。 「ねぇ、シズちゃん」 「…ん」 くせの強い俺の髪を指に絡めながら臨也が名前を呼ぶ。それに返事をするかのように顔を上げれば幸せそうに笑う臨也の顔があった。 「…俺達なら、このジンクス本物へと変えられるよね」 「……あぁ」 古くさい時計台の頂上にて。 (これからもずっと一緒にいようね) |