薄暗い寒空の下、白い息を繰り返し吐き出しつつ俺は…いや、俺達は無言のままで歩みを進めていた。


臨也の手と絡められた自分のそれが、今更ながら恥ずかしく思え、もぞりと握り直せば横を歩く黒髪が小さく笑いを零した。


「にしてもさぁ…嘘みたいじゃない?今の時代に、地図にも乗ってない忘れ去られた街があるなんてさ」


本当に珍しい事に、しばらく口を閉ざしていた臨也が話を始める。



無人の街がこの日本にもあるらしい。


そんなふざけた都市伝説を、同じくふざけた脳みその持ち主であるこいつが調べた結果、なんとその街は実在するらしいことが分かった。


しかも、その都市伝説には続きがあって


「…その街の時計台の上で愛を誓い合えば、永遠に一緒にいれる…か」
「試してみるだけ、とか考えてたけどさぁ…やっぱテンションあがるね」


自分と全く同じことを考えていたらしい臨也を横目に、ようやく辿り着いたその街を見て息を飲んだ。本当にあると知っていたとは言えど、やはり目のあたりにすると違う。


無人の街。話に聞いたときは、ちょっとだけ怖そうだと考えていた。


しかしいざ目にしてみるとそんなことはなく…むしろ何となくほっこりした暖かさを感じた。これもあの噂のジンクスだろう。きっと、今まで何組ものカップルに幸せを与えて来たその噂。恋人達の残していった柔らかな温もりを感じつつ俺は自然と目を細めた。


「シズちゃん、時計台ってあれじゃない?」 

臨也も臨也で若干興奮しているらしく、浮かれた色を含んだ声を上げた。


指差された方へと視線を向ける。すると確かに時計台らしき物があって、俺達は子供のように顔を見合わせて笑い合った。