雲一つない青空からさんさんと降り注ぐ日光。暑すぎず温かなそれは普段であればうっとおしく思うなんて事はなく、むしろ心地よく感じ、自然とうとうとしてしまうかもしれない。


しかし力仕事をしている最中の俺にとっては、苛立ちを増加させる原因の一つでしかなかった。


「あぁくそ…!暑ぃ!」


まだ物の少ない室内にたんすを運び込みながら愚痴を零す。自分一人で運んで来たそれの横に腰を降ろしつつ額に浮かんだ汗玉を拭った。まさかここまできついとは思っていなかった。


内心後悔の念を募らせ、俺は胸元のポケットから取り出した煙草をくわえる。


自分の、この化け物並の力があれば、わざわざ業者に頼まなくとも引っ越しくらい楽々一人でできると思っていた。しかし、実際結構な数の家具を一人で運ぶというのは、かなり体力を消費する作業であった。


力はあるが持久力は他人より少したかめなくらい。そんな俺が重い家具を持ち慣れない作業を行えば疲れが溜まるのも当然の事であった。


「でも今日はこれだけだし…片付けは明日でもいい…よな」


運び込んだ物を隅に寄せつつ、俺はその場にごろりと寝転がった。


一仕事終え、くたくたである身体は素直に休息を欲し、それに身を任せるようにそのまま瞼を閉じた。





「…ねぇ」




んだようっせぇな…





「ねえってば…」




あぁもう静かにしてくれ…






「ねぇってば、ねぇねぇ!もしもーし!」


「あぁうぜぇ!疲れてんだよ俺は!寝かせろよ!」



耳元に響くうざったい声に眉を寄せ、その声を振り切るように寝返りを打つ。俺は再びまどろみの中に意識を飛ばしかけ―…慌てて意識を覚醒させた。


身体が一瞬にして冷えていくのを感じつつ俺は恐怖を押さえ込み、その得体の知れない声の主を確認するために瞳を開いた。


外はもうすでに暗くなっていて、電気をつけていない室内は物の形をどうにか認識できる程であった。


そんな中


「…やっと起きた?起こすの苦労したよ」


目の前でへらりと笑っている見知らぬ顔は、ぼんやりと白い光を放っていて暗闇に綺麗に映えて見えた。


身体を動かすことが出来なかった。



恐怖なんか忘れ去ってしまっていた。



あまりにも…あまりにもそいつの顔が美しくて。






思わず見とれてしまった。
 



(えっと…取り敢えず、はじめまして)
(こうして俺とこいつの生活がスタートした)