夜更けに目が覚めた。
ら、眼前に広がったのはいつも通りの見慣れた天井ではなく、少し埃っぽい薄汚れた懐かしいそれだった。


「………は…、?」


人の気配がして両隣を見やれば、ご自慢の長髪を無造作に放り出して寝ている桂としかめっつらをしたまま雑魚寝をする高杉がいた。


「ナニコレ夢?いや、夢だな。うん、夢だ」


そうだ夢に決まっている。そうでないならばヅラはまだしも高杉が俺の隣で眠るはずなどない。第一、ヤツの左目はまだ綺麗なままだ。まだ日も昇らない時効だからかその部屋は薄暗く、少し肌寒かった。もう一眠りしようと布団にうずくまる。


「銀時」


目を閉じた瞬間だった。寝ていると思っていた隣人はどうやら起きていたようで唐突に名前を呼ばれた。


「なんだよヅラ、俺は今からもう一眠りすんだよ。起こすな」

「何を言っているんだ馬鹿が。明朝には支度をしろと昨日言ったではないか」

「はぁ?支度?なんのだよ」

「戦に決まっているだろう。寝ぼけるのも大概にしろ」

( あー…そっか、これ夢なんだっけ。ついてねェな、昔の夢なんざ見るなんて )

「オイ、聞いているのか銀時」

「あーハイハイわあったわあった。いいかーヅラ、戦はもうとーっくの昔に終わってるわけ。だから俺が起きる必要はないの。んじゃ、おやすみ」

「………………。」

「…………。」

( お、静かになった。なんだ夢の中のヅラはやけに物分かりいいじゃねぇか。よし、これでゆっくり寝れ… )

「銀時」

「っ、だーもう!なんだようっせえな!黙ったと思ったら次はなんだ、よ……」


俺の怒声は目の前の光景に吸い込まれてしまった。俺のことを呼んだはずの桂は血にまみれて倒れていて、その後ろではさっきまで俺達が寝ていたはずの廃寺が燃えていた。デジャビュ、という言葉がぴったりな程あの時の状況と似ていた。大切な人を失った、あの時と。


「いいよなァ、お前は」

「たかす、ぎ」


突然、頭の上から声がした。声の主は顔の左半分を血で濡らし、それを左の手で押さえていた。右手には真っ赤に染まった刀が握られている。


「そうやって目を閉じて、全部なかったことみてェにしてよ。」

「違う、ち、がう。俺は…」

「なにが違ェんだよ、ああ?俺は忘れたくても忘れられねェ。逃げたくても逃げられねェ。この左目が疼く限り、俺はこの苦しみからは逃れられねェんだ。それがテメェにわかるのかよ!」


視界が暗転して再び景色が変わった。俺の周りには無数の屍が散らばり、むせ返りそうになる程血の臭いが充満していた。俺の右手には先程高杉が握っていたそれよりも酷く血を浴びて錆び付いた刀。激しく降る雨が俺の髪を、肩を、刀を濡らしていく。


「鬼がいると聞いて来てみれば、まあなんと可愛いらしい子鬼がいたものですね」

( やめろ )

「どうせならその刀、」

( やめろ、やめてくれ…! )

「誰かを守るために振るってみませんか?」













「銀ちゃん!銀ちゃん!」

「銀さん!」

「っ、……神楽…?…新八…?」

「姐御ォ!銀ちゃん目が覚めたアル!」

「よかった、銀さん…。このまま死んじゃうかと思いましたよ」

「俺…、?」

「え、覚えてないんですか?桂さんと傷だらけで帰って来たあと、そのまま倒れて今の今までずっと眠ったままだったんですよ」

「…そーいえば、そうだったな…、ヅラは?」

「桂さんも大事なかったそうで、今度お見舞いにくるって言ってました」

「そうか…、」

「あれっ、銀ちゃん泣いてるアルか?」

「あらあら、銀さんったら怖い夢でも見たのかしら」

「姉上も神楽ちゃんも、そっとしといてあげましょうよ」


いつの時代も守りたいものは目の前にあるのに、あの時守れなかったものばかりが鮮明に蘇る。いつまで捕われ続ければ、この連鎖は終わるのだろうか。もうとっくにあの時代は死んだというのに。

( いつだって大切なものはこの手をすり抜けていく )

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