キスも、頭を撫でられるのも、全部全部好きだけど、一番好きなのは、手を繋ぐこと。柔造さんに、手を握ってもらうこと。それを金造に話したら、
「お前って案外アホなんやな」
なんて、失礼なことを言われた。正直、金造にはアホって言われたくなかったな。
そんなことを思っていたら、急に柔造さんに呼ばれた。
「何考えとんねや」
「え、あー…な、何も」
布団に二人で入っているのに金造のことを考えてた、なんて言ったら柔造さんは絶対機嫌を悪くするに違いない。だって、以前もそんなことがあったし。
何より、今の彼の眉間の皺が、そう訴えていた。
「まさか、俺以外のこと考えとったん?」
「ち、違いますって」
「ほんまか?」
「本当ですっ」
「…なら、ええんやけど」
そのまま、ぎゅうっと抱き締められた。それはもう身動きがとれないくらい力強く。
「なぁ、もう結婚せぇへん?」
「私、まだ19ですけど」
「結婚、したないんか?」
「そうじゃないですけど…」
恋愛を楽しみたいのに、今結婚してしまったら、楽しめない。けど、それを柔造さんに言う勇気は私にはない。
「あ、の…柔造、さん」
「何や」
「私…もう少し、柔造さんと恋人で、いたいんです」
「、……」
「だから、結婚はまだ、早いっていう、か…」
もごもごと口ごもりながら告げた言葉を、柔造さんは理解できただろうか。理解してくれただろうか。ちらり、と彼を見上げると、どこか満足そうに笑っていて。
「柔造、さん…?」
「ほんま、かいらしいなぁお前は」
「、はっ?」
「まだ恋人でおりたいて…あんなことやそんなこ「違いますってば!」
ニヤニヤ笑いながらとんでもないことを言おうとしていたから、途中で言葉を遮った。何という変態思考を持ち合わせてるんだこの人は。
「冗談や、冗談」
「冗談に聞こえませんでしたけど」
「ははっ、堪忍な」
そう言って私の背中から片腕を外して、腰に回されていた腕にぐいっと引き寄せられた。背中から離れた手は、いつの間にか私の片手をしっかりと握っている。
あぁ、これだ。この人の、この手の温もりが、私は大好きなんだ。そう思いながら、きゅっと手を握り返した。
「手ぇ繋ぐと、お前はほんま幸せそうな顔しよるな」
「、え?」
「その顔、俺のお気に入りなんや」
誰にも見せたらアカンからな、そう言って笑う柔造さんに、言わずとも私はまた惚れ直してしまったのだ。
企画サイト「志摩うま」様に提出。
参加させていただき有難う御座いました!